井上尚弥の父が語った…ドネア戦で見えた、その強さを支えるもの

世界を制するために必要なこと(前篇)
井上 真吾

運にも恵まれた3ラウンド以降

――真吾さんの気持ちが平静に戻ったのは、何ラウンド目からですか?

真 いや、戻らなかったです。

つねに焦ってたし、血が出てないか、今は出てないから安心だなとか。
何をしゃべったか、記憶が飛んでるところもあって。

このあいだ、NHKに呼んでいただいて、8Kで試合を見たんです。

そしたらインターバルのセコンドの声も全部入ってたんですね。自分がカットマンの佐久間さんに「佐久間さーん、止めてくれー!」。で、佐久間さんが「まかせとけ!」とか、そういう覚えていなかった声が入っていた。そんな風で、覚えていないことがけっこう多い。

――ということは、2ラウンドで傷を負って以降は、判定狙いに切り替えた?

真 必ずしもそういうわけではなかったです。流れの中で倒せるようであれば行かせるし、危ないとき時には「こうした方がいいよ」とアドヴァイスする。そこは普段と変わりはなかった。

3ラウンド以降はジャブと足を止めないこと、それだけはつねに言っていました。ドネアも思いのほか傷を狙ってこなかった。後で記事を見たら、ドネアが「そんな状態だと知っていたらもっと傷を狙えばよかった」、そう言ってるんですね。

そこは救われたなあ、運がよかったなあと思います。

それに、まだ尚のパンチが生きてたから、ドネアも、かさにかかって攻め立てることはできなかったんじゃないでしょうか。

 

タフネスとメンタルの強さが証明できた

――で、そのあとの7、8、9ラウンドは、作戦的に流すというか、捨てるラウンドにした。

真 捨てたわけではないです。ジャブと足で流す。でも、ポイントは取られちゃダメ。基本的に、どんなときでもポイントは取られちゃダメです。最低でもイーブン。

――じゃあ、「このラウンドは、ポイント取られてもいいよ」とは言わない?

真 ああ、そんなことは絶対に言わないです。ポイントを取られてもいいというのは作戦でもなんでもないですから(と笑う)。

――端から見ていると、スローダウンしたのかなと思いましたが。

真 それはないです。尚が「このラウンドは流すから」と言ったので、「わかった、その代わり、ジャブは突いてポイントは取られないようにしよう」言ったんです。

――で、9ラウンドにも、またいいパンチをもらって、「ちょっと危ないんじゃないか」とひやりとしました。一番、悪い食い方をしたように見えたのですが。

真 たしかに、本当にあれがドネアの最高のパンチだったら、倒されていてもおかしくなかったかも知れません。でもドネアにもすでにダメージの蓄積があったから、あのパンチにもそこまでの威力はなく、倒されるような効かされかたではなかった。

尚は打たれ弱いんじゃないかとけっこう言われていたじゃないですか。でも今回の試合で尚のタフネスやメンタルの強さが証明できたと思います。