井上尚弥の父が語った…ドネア戦で見えた、その強さを支えるもの

世界を制するために必要なこと(前篇)
井上 真吾

――前からお話をうかがっていると、拓さんは性格が優しいようなので、そういうスタイルは難しいんじゃないかと思ってしまうのですが・・・・・・。

真 そんなことはないですよ。だって格闘技ですから。

やるかやられるか、それができなければ勝てない。今回の結果でそれはわかったわけだから、それを踏まえて荒々しさとか、そういう新たな引き出しを増やさなければならない。

 

ネガティヴな気持ちになることはない

――アメリカの強い選手などは、チャンスだと思うとガードもお構いなしに攻めていきますよね。尚弥さんにも、そんなところを感じます。

真 あいつは瞬間、瞬間には、もう「何してでも」・・・・・・となりますから。

もちろん、その気持ちは拓にもあるんです。けど、試合で出せるかというと、ちょっと遠慮してしまっている。でも、それで今回、負けたんで、これからは変えないと。

――さて、拓真さんの試合が終わって、次の尚弥さんの試合の準備をしなければならない、それで真吾さんは拓真さんと一緒にリングを降りられなくて、先にご自分だけ控え室に走って戻られました。
ちょっと慌ただしいな、会場で見ていて、準備としてどうかな、と、ちらっと思ったのですが。

真 それは前から決まっていたことですから、特に問題はなかったです。尚も含めてスタッフも、気持ちの上でバタバタしたとかはなくて、切り替えは特に問題はなかった。

――尚弥さんにも、「弟が負けたから俺がやらなきゃ」という気負いもなく?

真 そこは本人ではないのでわからないですが、たしかに兄弟二人とも負けるわけにはいかない、という気持ちはあったと思います。でも同時に、相手がレジェンド・ドネアなので、兄弟どうのこうのというより、相手に負けたくないという気持ちだったんじゃないでしょうか。

――ドレッシングルームで真吾さんに、「尚も負けるかも」・・・・・・というネガティヴな気持ちがよぎったりはしなかった? 

真 (すかさず)戦う前にそんな気持ちになるわけないじゃないですか! 格闘技なんで、そんな気持ちが少しでも入ったらダメでしょ。
それに井上尚弥という、これまでに積み重ねた実績もあるし、いいトレーニングもできていた。トレーナーとしても親としても、そんなネガティヴな気持ちは、ほんの少しもなかったです。

――つまり、平素からネガティヴな気持ちが入ってくることはない?

真 (しみじみ)ないですねえ。

もし仮に自分がネガティヴになることがあるとすれば、尚がボクシングをなめたようなところを見せた時でしょうか。でも尚は集中してドネアを倒すための練習をして、やれることはすべてやった。そういう自負があったから、自分的には自信満々でした。