80歳が100歳を手術する時代でも、「蛍光色素」が未来を照らす!

低生存率のがん手術が安全かつ快適に!
ぶーめらん プロフィール

手術の数日前に蛍光色素を肝臓に注入する。色素は肝臓の細胞にいったん取り込まれるが、正常な細胞からは胆汁としてすぐに排出されていく。

 

一方、腫瘍部は色素が排泄されにくくなっているために、そこだけ色素が残る。これに比較的波長が短く目に見えない近赤外光を当てると、肉眼では見えないが、モニター上ではくっきりと緑色に映し出される。執刀医は、手術中にその画面を見ることで、病変部を確認し、正確に切除できるのだ。

「リアルタイムで患部を見極めることができるうえに、術前には見つけられなかった腫瘍を見つけることもできる。なによりも誰が見ても、そこががんだとわかる。このインパクトは大きい」

と波多野教授もその可能性を高く評価する。島津製作所も近赤外光カメラシステムLIGHTVISIONをリリースしており、より優れた蛍光ナビゲーション・サージェリー実現に向けて、知恵を絞っている。

島津製作所の近赤外光カメラシステムLIGHTVISIONは、血管・リンパ管などに投与した薬剤(インドシアニングリーン:ICG)に励起光を照射し、ICGから発生する微弱な近赤外蛍光を画像化することにより、組織表面下の血管やリンパ管の観察を可能にするシステムで、手術中での確認が短時間で容易に行えるため注目を集めている。

患者も医師も「コンフォタブル」な手術を追究

「ナビゲーションは、まだ生まれたばかりの技術。望むことはたくさんあります」と波多野教授。なかでもコンフォート(快適)という言葉を繰り返す。

「患者さんはもちろんですが、医師にとってもコンフォタブルな手術であること。これが非常に重要だと思っています」

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ときに10時間を超えることもある外科手術。執刀医の体力的、精神的な負担は想像を超える。しかし、ナビゲーション・サージェリーによって「ここは切っても大丈夫だろうか」といった不安が払拭できれば、医師は自信をもって手術ができる。

「僕らが、ああ今日はいい手術ができたなあと振り返ることができた日は、間違いなく患者さんにとっても幸せなはず。今の装置はそういう日を確実に増やしてくれています。でも今後は、今よりもさらに見たいものが的確に見られて、操作も簡単なシステムを少しでも早く実現してほしい」

波多野教授がナビゲーション・サージェリーに強い期待を寄せつつも、焦りを訴える理由がもう一つある。いよいよ顕在化しつつある少子高齢化の問題だ。

そもそも近年の医師不足のなか、外科医は特に高度な技能が必要であり、一人前になるのに時間がかかる。業務も拘束時間が長く、外科医になりたいという若者は減る一方なのだ。事実、外科医の平均年齢は年々上がっている。半面、高齢化の進展に伴って、がん患者は増えていく。

「このままでは、100歳の患者さんを80歳の医師が手術する状況が生まれてもおかしくありません。だからこそコンフォタブルであることは本当に大事なのです。

私が年を重ねたときも、安心して手術ができればそれだけでもありがたいですし、手術の負担が少なければ、外科医を目指そうという若い人も増え、日本の医師不足の解決につながるかもしれません。この技術は、そういった世の中の課題にとっても、重要な役割を期待されているのです」

波多野 悦朗(はたの えつろう)
兵庫医科大学 消化器外科学講座・肝胆膵外科主任教授 兵庫医科大学病院 肝疾患センター 副センター長。
兵庫県生まれ。京都大学大学院医学研究科消化器外科を修了後、同研究科で、研究を重ねるとともに、京都大学肝胆膵・移植外科准教授の後、2016年に兵庫医科大学に入職。2019年より現職。

(本記事の初出は島津製作所「ぶーめらん」39号。元となったページはこちら
所属・役職は2020年6月現在のものです)