寅さんの実家である団子屋「とらや」のモデルとなった柴又・高木屋老舗

悩める人への処方箋「寅さんの名言」2020年に残したいベスト10

「寅次郎」シリーズ全50作から厳選

マドンナへの思いがこもった、別格のセリフ

風に吹かれてころがる塵芥(ちりあくた)のように、どこからともなく破天荒な男が東京は葛飾柴又に帰ってきた。年の頃なら35~36。下駄を思わせる四角い顔にあるかなきかの細っこい目。格子縞の背広に腹巻、中折れ帽子に雪駄履きといういでたちだ。どうやら堅気の男ではなさそうである。男の名は車寅次郎。テキヤ稼業のこの男、粗野でおっちょこちょい、おつむも褒められた出来ではない。人呼んでフーテンの寅と発します。

高度経済成長の真っただ中にあった昭和44(1969)年、はた迷惑な男を主人公に据えた映画『男はつらいよ』の第1作が公開された。以来、半世紀にわたって世間様を笑わせ、ときにほろりとさせてきたシリーズの最新作で、50作めとなる『お帰り 寅さん』が12月27日に公開される。世が平成から令和と改まった今、昭和の申し子のごときフーテン男の名(迷)言を振り返ってみるのも無駄ではあるまい。寅さんに扮した、今はなき渥美清への追悼の意味を込めて……。

 

「風の奴が東から西に吹いてますんでね、西の方へでも行きますか」(第42作『ぼくの伯父さん』)

これほど、寅さんという男を端的に、しかも的確に表現したセリフはあるまい。

寅さんは、柴又の帝釈天参道に店を構える団子屋の跡取り息子という設定。けれども、16歳で家出したきり音信不通となっていたため、店は叔父の竜造夫婦(森川信、三崎千恵子)が守り、寅さんの妹・さくら(倍賞千恵子)も寄宿している。

柴又帝釈天参道

20年ぶりに帰郷してはみたものの、たちまち風来坊の馬脚をあらわし、「二度と帰っちゃ来ねえよ」とばかり、旅に出てしまう寅さん。祭礼や縁日を求めての気ままな旅暮らしが骨の髄までしみついているのだ。つつましやかな日銭稼ぎなど、とうてい務まる男ではない。

第1作『男はつらいよ』の冒頭、20年ぶりに故郷の土を踏む寅次郎は、京成電車ではなく、「矢切の渡し」を使って「とらや」に帰る

しかも、まるっきり計画性のない、出たとこ勝負の男であるからして、次はどこの土地で商売するかも風任せなのである。佐賀県で草鞋(わらじ)を脱いだ家の主婦(檀ふみ)と交わす会話である。

寅さんの言葉を耳にした主婦は、「わあーっ、私もそがん旅がしてみたか」と反応する。しかし、もう初老にさしかかっている彼は、あてどない旅暮らしの虚しさを知り尽くしている。で、「へへっ、もののたとえですよ。早い話が根無し草みたいなもんですからね」と付け加えずにはおれないのだ。