「あまり効かない」インフルエンザ接種、でも接種すべき3つの理由

「嫌ワクチン論」に騙されてはいけない
宮坂 昌之 プロフィール

つまり、最初にXに反応してしまったためにYに反応しがたい状況ができあがり、あたかも、ウイルスXに反応したということが「原罪」となり、よく似たウイルスYにはうまく反応できない、というように見えます。これが「抗原原罪」とよばれる現象です。

ただし、この現象は、最初に曝されたウイルスに対する反応性が生体に刷り込まれた(=インプリンティングされた)ためで、このために2番目に入ってきたよく似たウイルスよりも、最初に曝された元のウイルスに対して優先的に反応した、と見ることもできるので、最近は「インプリンティング」といういい方がされることもあります。

 

「抗原原罪」にせよ「インプリンティング」にせよ、最初に感染したウイルスに対して優先的な反応性が与えられ、それがあたかも「亡霊」であるかのごとく働いて、2回目に感染したよく似たウイルス(あるいはそれに対するワクチン)にうまく反応できなくなる、という説です。

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考え方としては、なるほど、と思うところがあります。しかし、1種類のウイルスの上には多数の抗原が存在していて、そのうちあるものはインフルエンザウイルスどうしで共通であり、あるものは異なっています。そして、強い(=抗体を作りやすい)抗原と弱い抗原があります。したがって、先のような説明だけだと、どうも話があまりに単純化されすぎているように思います。

あらゆるインフルエンザに効くワクチン!?

そこで、この現象を、ウイルス粒子上の抗原エピトープの観点から見てみることにします。

ここで、エピトープとは、抗体が結合する抗原の一部のことで、一つの抗原の上にはいくつもの抗原エピトープ(抗原決定基)があります。

たとえば、インフルエンザウイルス粒子の表面にはHA、NAという少なくとも2種類の糖タンパク質(=抗原)が発現していて、それぞれの上には多数の抗原エピトープが存在します。

インフルエンザウイルス粒子上のヘマグルチニンの構造と性状
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このHAは、さらに、構造的に頭部と頸部とよばれる二つの領域に分けられ、それぞれの部分の上に多数の抗原エピトープが存在します。このうち、HA頭部は、アミノ酸変異が入りやすく、ウイルスごとに抗原性が異なります。しかし、外に露出されているせいか、この領域は抗体ができやすいことが知られています。

つまり、HA頭部には抗体を作りやすい(=免疫原性が高い)エピトープが多いと考えられます。そして、現在使われているインフルエンザワクチンは、このHA頭部の成分が抗原として使われています。

これに対して、HA頸部には変異が入らず、アミノ酸配列は、異なるインフルエンザウイルスの間でほぼ不変です。したがって、もしこの部分に対してうまく抗体を作ることができれば、その抗体はどのインフルエンザウイルスでも殺せる可能性があり、医学的にとても役立つ抗体となるはずです。

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しかし、HA頭部で隠されているせいか、HA頸部には抗体ができにくいことがわかっています。つまり、HA頸部に存在する抗原エピトープは抗体を作りにくい(=免疫原性が高くない)ものが多い、ということになります。

先に述べた「抗原原罪」の考え方だと、抗体ができやすいHA頭部に先に抗体ができてしまうと、そもそも抗体ができにくいHA頸部に対しては余計に抗体ができにくくなってしまう、ということになります。

一方、先に述べた「インプリンティング」の考え方によれば、もしHA頭部に対する抗体を作る前にHA頸部に対する抗体を作ることができれば、その抗体がその後も優先的に作られる可能性がある、ということになります。