「エクストリーム・ジョブ」に見る、チキンと韓国社会のふか~い関係

韓国で観客動員数1位の大ヒット映画
金 敬哲 プロフィール

子供の教育費と親の生活費の両方を背負う「ダブルケア」状態にある韓国の中年男性が、退職後に悠々自適の生活を送れるケースはほとんどない。就職難で大学卒業後も経済的な自立ができずにいる子供たち、年金制度の遅れにより子供からの援助なしでは生活できない親たちに代わって、もう一度就職市場に挑戦しなければならないのが、今の韓国における中年男性の宿命なのだ。

 

そして、企業への再就職の道がほぼ閉ざされている中で、退職した中年男性が手軽に進出できる分野は「自営業」しかない。コンビニ、コーヒー専門店、チキン店は、韓国の退職者が選ぶ3大自営業である。

特にフランチャイズチキン店は、退職した中年男性にとって、いちばん取っつきやすい仕事だ。材料や調理マニュアルはすべて本部が提供し、インテリア業者まで紹介してくれる。売場のスペースを確保し、フランチャイズ費用さえ払えば、誰でもオープンできるようになっている。少なければ5000万ウォン(約470万円)からでも開業が可能だという。

人気フランチャイズチキン店

韓国男性の人生を指して、「起-承-転-チキン」という流行語がある。学歴が高卒であれ名門大学出身であれ、会社が中小企業でもサムスン電子でも、結局は、チキン店が人生の終着駅という意味だ。

追い詰められる自営業者

OECDの2017年の統計によれば、韓国の勤労者全体のうち自営業者が占める割合は25.4%だった。OECDの平均である17.0%より8%以上高く、経済先進国である米国(6.3%)、日本(10.4%)、ドイツ(10.2%)に比べると、2倍~4倍も高い。OECD加盟国のうち、韓国より自営業者の占める割合が高い国は、コロンビア、ギリシャ、トルコ、メキシコ、チリの5ヵ国だけである。

2010年代序盤から本格的に低成長の時代に入った韓国では、大手・中小を問わず企業の雇用能力が弱体化し、生計型自営業者が右肩上がりで増えている。しかも、新規参入者の増加による過当競争によって、これまでの自営業者たちまで苦しくなる悪循環になり、自営業者の所得は賃金労働者の50%台まで落ちた。

この自営業者たちを、文在寅政権が推進している労働政策が、さらに窮地に追い込んでいる。文在寅政権の2年間で最低賃金が約30%も上がったが、その直撃を受けているのが自営業者なのだ。不景気で売り上げが減少しているにもかかわらず、政府が最低賃金を急速に引き上げたことで人件費などが高騰、二重苦を招いている。2017年、自営業の代表格である飲食業の廃業申告率が92%と、6年ぶりに最高記録を更新した。毎日10軒の飲食店がオープンする一方で、9.2軒の飲食店が閉店に追い込まれているということだ。

チキン店も状況は同じだ。前出の「KB金融持株経営研究所」の報告書によると、韓国では毎年6000~7000のチキン店が開業し、約8000のチキン店が廃業するという。まさにチキンゲームである。