映画「エクストリーム・ジョブ」より

「エクストリーム・ジョブ」に見る、チキンと韓国社会のふか~い関係

韓国で観客動員数1位の大ヒット映画
1月3日に、日本でも全国ロードショー公開された韓国映画「エクストリーム・ジョブ」。韓国では2019年の観客動員数1位に加え、歴代観客動員数2位、歴代興行収入1位という大記録を達成した​ヒット作だ。刑事たちが繰り出すギャグとアクションが見どころのコメディー映画だが、全編にわたって登場する韓国のソウルフード「チキン」の魅力も欠かせない。

実はこの「チキン」、近年韓国の中年男性が置かれている社会的な状況と密接に関わっているという。「チキン」と韓国社会の不思議な関係を、『韓国 行き過ぎた資本主義』の著者・金敬哲氏が解説する。

1600万人を動員した爆笑コメディー映画が、日本でも公開

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「パラサイト 半地下の家族」をしのぎ、昨年、韓国で観客動員数1位(1600万人)を記録した映画「エクストリーム・ジョブ」が、1月3日、日本で公開された。

1月3日公開の映画「エクストリーム・ジョブ」

2019年の観客動員数1位だけでなく、韓国における歴代観客動員数2位、歴代興行収入1位という大記録を達成した本作は、日本でもリメイクされた韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」の脚色を担当したイ・ビョンホン監督の2番目の演出作で、シナリオはもちろん、演出にも卓越した才能を見せるイ監督は、この映画で一気に巨匠の仲間入りを果たした。

 

「エクストリーム・ジョブ」は、コメディーとアクションが絶妙に組み合わされた刑事ドラマだ。昼も夜もなく駆けずり回るが、実績は最低。あげくの果てに解体の危機を迎える麻薬捜査班。そのリーダーであるコ班長は麻薬を密輸している国際犯罪組織の情報をつかみ、チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェフンの4人のメンバーと共に張り込み捜査を開始する。

麻薬捜査班は、その組織を24時間監視するため、彼らのアジト前にあるチキン店を引き継ぎ、偽装営業をすることに。だが、絶対味覚を持つマ刑事の隠れた才能により、思いがけず、そのチキン店は名店として名を馳せるようになる。捜査は後回し、チキン売りで息つく暇もなく忙しくなった麻薬捜査班に、ある日、絶好の機会が訪れるが……。

チキンは韓国人のソウルフード

映画の見どころは、コ班長役のリュ・スンリョンと麻薬班の刑事4人が見せる爆笑の演技とギャグ満載のセリフ、そして息ぴったりのアクションなどだが、もう一つの主人公「チキン」の魅力も欠かせない要素だ。

「エクストリーム・ジョブ」では、制作期間の6ヵ月で、249ピースのカルビ味つけチキン、106ピースのフライド・チキンを含め、延べ463羽のチキンが使用され、約110分の上映時間中に24回もチキンが登場し、観客の食欲を刺激する。

映画の大ヒット後、韓国の有名フランチャイズチキン店が、映画に登場する王カルビ味付けチキンを、実際に新メニューとして登場させたことでも話題となった。

韓国にチキン店が山ほどある理由

チキンは韓国が世界に誇る「Kフード」の代表的な食べ物で、韓国人のソウルフードともいわれる。「チキン共和国」という言葉もあるほどで、多様な料理法のある韓国のチキン店は、2019年2月時点で、全国に8万7000店あまりが営業中だ(「KB金融持株経営研究所」報告書)。マクドナルドの店舗が全世界で約3万6000店なので、その約2.4倍である。

韓国のチキン店
韓国のチキン店

韓国にこれほどチキン店がある理由は、韓国の中年男性を取り巻く事情と深い関係がある。現在、韓国の経済状況は「IMF危機以降最悪」ともいわれており、以前から指摘されてきた青年の失業問題だけでなく、ここに来て、社会と家庭の中枢を担う中年の失業率も高まり、大きな社会問題になっている。

2015年、ソウル市が50~64歳のソウル市民1000人を対象に実施した調査によると、ソウルに住む男性の退職年齢は平均53歳、女性は平均48歳だった。しかも、退職後の再就職率は53.3%にとどまる。平均寿命が82.6歳(2017年時点)の韓国で、50代前半で会社から追い出され、再就職の道も半ばふさがれているのだ。