NASA・ジェット推進研究所が語る「宇宙開発とクラウド」の未来

3つの脳を備えたマシンで宇宙探査!?
西田 宗千佳 プロフィール

宇宙機が自ら「考える」時代に

ソルダーストーム氏は、「クラウドとエッジ・コンピューティングの活用が重要」と話す。

エッジ・コンピューティングとは、デバイス(端末)に近いところに、サーバーを分散的に配置することを指す。各デバイスの近くでデータ処理することで、システムへの過度の負荷を避け、通信の遅滞を防ぐことを狙ったものだ。

クラウドが、計算資源をまとめ、必要な部分をネットワークを通じて貸し出すビジネスであるの対し、エッジ・コンピューティングは、処理の一部をクラウド側でなく機器の側でおこなうものといえば、わかりやすいだろう。

 

エッジ・コンピューティングは、クラウドほど多量のデータを使って高度な処理をするのは難しいものの、ネットを介してデータを送る必要がなく、即応性が高いことが重要だ。

宇宙開発においては、非常に遠い場所(たとえば150億km!)にある機器と通信をする必要があるため、地上のように、自由に高速な通信回線を使うことは難しい。

「宇宙機はすべて、エッジ・コンピューティングのデバイスなんですよ」とソルダーストーム氏は笑う。

「たとえば、火星探査用の機器を考えましょう。火星探査機には、そこまでの演算性能を搭載できません。宇宙では放射線の影響があり、放射線耐性をもたせた機器を使う必要があるからです。

Photo by Getty Images

また、宇宙からすべてのデータを送るのも難しい。したがって探査機は、どの写真を送り返すか、どの写真を選ぶのかを、まずは探査機自身が、自ら決める必要があります。

そこでは、機械学習技術が使われています。データの視覚化も重要です。現在、探査機が人間の考えを理解できるようにする新しい方法を考えています。それが実現できれば、人間にどこに注意を向けるべきかを伝えられます」(ソルダーストーム氏)

JPLが仕掛ける火星探査プロジェクト

JPLは、火星探査プロジェクトの一環として、2018年に自動運行型のローバーを公開している。

ここでいう「公開」とは、単に存在を発表したという意味ではなく、設計などをすべてオープンソースとして公開した、ということだ。ソフトウエアはもちろん、3Dプリンターでパーツをつくるためのデータも公開されているので、その気になれば自宅でもこのローバーを作製することができる。

オープンソースで公開されているローバーのもとになった「ROV-E」。写真は、2017年末に筆者がAWSのイベントで撮影したもの

大・中・小、3つの脳を組み合わせる

ローバーのようなロボットは、エッジ・コンピューティング機器といえる。しかし、それだけではなく、エッジ・コンピューティングの「多段階的活用」とクラウドの連携が、宇宙計画での活用には重要だ、とソルダーストーム氏は指摘する。

「移動中のローバーが立ち往生したとしましょう。そこで面白いものを見つけたとする。

ローバーはその写真を撮るわけですが、ローバーそのものに搭載されているコンピュータの能力は限られています。ならばどうするか?

『小さな脳』には、『中くらいの脳』と『大きな脳』を組み合わせて使えばいいんです。ここでいう大きな脳とは、地球にあるクラウドのことです。中くらいの脳は、おそらく宇宙船に配置されるでしょう。クラウド側で学習した結果を宇宙船に送り、さらに宇宙船で処理して、アルゴリズム自体を最前線であるローバーまで送るわけです」

そうやって、どの写真が重要か、ということをカメラに認識させる方法を変えていき、最適化していく。そして、見つかった疑問を地球に送り返す。

「もちろん、欲しい情報があれば、科学者がそれを指示することもできます。そうやって、演算能力と宇宙での通信量を削減していく。宇宙開発は、クラウドとエッジ・コンピューティングのコンビネーションなのです」(ソルダーストーム氏)

地球を遠く離れ、人間を簡単には送れないような場所では、ロボットが活躍する。そのためのしくみとして、クラウドとエッジの組み合わせは必須のものだ。

JPLはそのことを、宇宙開発で実地に試しながら進歩してきた。現在のクラウドテクノロジーの活用も、過去の知見と最新の技術を組み合わせるかたちで進んでいるのだ。

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