恋愛から始まったら
この関係性は無理だったかも

この作品が世に問うたものは、各個人の生きづらさに加えて、家事の無償労働性などもある。昨今は専業主婦の家事労働の対価について議論されることも増えてきたが、この作品はそういった時代の流れよりもずっと前からこの問題を可視化していた。

「別に社会的な課題を提唱しようと思ったのではなくて、あくまで『有償でやっていたサービスが無償になったらどうなるのかな』というテーマでシミュレーションをしたんです。そういう発想だから、家事は無償でやるもの、というところには立脚していない。結果的にそういった議論を呼んだ、という感じですね」

(C)海野つなみ 『逃げるは恥だが役に立つ』

海野氏の語る「有償のサービスが無償になったら」という問いは、みくりが平匡と恋仲になり、本籍を入れるくだりで現れる。契約結婚じゃなくなることにより、自分の仕事が無償労働になるのではないかと焦ったみくりに対して、読者からは「がめつい」といった非難もあったという。

「この作品を『恋愛漫画』として読んだ場合、本籍を入れるというのは、めでたしめでたしのハッピーエンドなんですよね。だからみくりが躊躇して距離を置きたいと言ったとき、え、なんで、となった。

逆に、この作品を『お仕事漫画』として読んでいた人は、『そうだそうだ、ここで引いちゃダメだ』という感じで賛同を示してくれました。あの回は賛否両論でしたね」

作中では、みくりが自分のモヤモヤしていることを正直に平匡に伝え、無事彼らは納得のいく形で合意をすることになる。

「これは二人がお仕事からスタートした関係だからできたことだとは思いますよ。もし恋愛関係から始まったら、平匡さんは恋人だからともっと甘えたかったかもしれないし、みくりも好きだからと自分で引き受けてしまったかもしれない。でも、あくまでお仕事の延長線上にあるから、平匡さんは『対価に見合った仕事』として捉えられるし、みくりは『不満な点は黙っていても伝わらない』と考えることができる」