掘り下げれば
「その人なりの孤独」が見えてくる

高学歴で就職難のみくり、高齢童貞でプロ独身の平匡、バリキャリで高齢処女の百合ちゃん……など、作中に登場するキャラクターたちはみな、それぞれに生きづらさを抱えており、そことどう折り合いをつけていくか、という葛藤もこの作品の肝である。しかし、海野氏は「わざわざ生きづらさを描こうとしたことはない」と語る。

「どんなキャラクターも、その人の生き方や背景を掘っていくうちに、“その人なりの孤独”というものに行き当たるんです。孤独って、老いても、若くても、ひとりでいても、ふたりでいても、家族でいても、お金を持っていても、貧乏でも、誰もが抱えているものなんですよ。だから、『この人の生きづらさはなんだろう?』と考えるのではなくて、まず一人のキャラクターがいて、『その人の孤独』まで掘り下げて焦点を当てる、という形で描いていました」

海野さんが「誰しも孤独がある」と感じたのは、学生時代のひとつのさりげない会話からだった。

「大学生のときに、同級生にご実家がとってもお金持ちのお嬢さんがいたんですね。お小遣いを毎月たくさんもらっているから、バイトをする必要もない。一見したらとても幸せそうに見えますけど、あるとき彼女が『みんなバイトをしていて時間もないから付き合ってくれなくて、私は何もやることがなくて、孤独で仕方ない』とすごく悩んでいたんですよ。

聞いたときは『いや、じゃああんたもバイトしたら』ってなりましたけど、でも同時に、どれだけお金をもっていても孤独は無くならないんだなとも思ったんですよね。例えばお金持ちでも、一言も会話がない家で育った子がいたとしたら孤独ですよね。それは、貧乏だけどワイワイ楽しげな家で育った子の孤独とは比べようがない、その子だけの孤独です」

※写真はイメージです〔PHOTO〕iStock