大手進学塾四谷大塚の調査によると、首都圏(東京・埼玉・神奈川・千葉)で中学受験をする割合は毎年増えており、令和2年の中学受験は5万人を上回ると予測されている。1都3県の小学生の17%強が中学受験をする算段となる。

中学受験に挑むのは、よりよい教育、子どもに合った教育を受けさせたいという親の気持ちや、この学校に行きたいという子どもの思いなど様々な理由があるだろう。素晴らしい教育環境に身を置きたい、置かせたいと思うのは当然のことだ。

ただ、時として親の思いだけが走る「教育虐待」で子どもを縛ってしまう例もある。長年教育の現場を取材してきたジャーナリストのおおたとしまささんは『ルポ 教育虐待』という本も上梓し、親の思い通りにしようとする虐待についても詳細に伝えてきた。

そんなことは我が家ではない、子どもの意思を大切にしているから――そういう家庭の中でも、もしかしたらこんな「ソフトな洗脳」となっている場合もあるのではないだろうか。

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東大・京大・早慶以外は
もんだいがーい♪

子どもの人生は子ども自身に選ばせるべきであることは、現代の親であればほぼみんな頭では理解している。しかし幼い子ども自身が最初から世界を知っているわけではない。多くの場合、親という窓を通して世界を覗き、そのなかから良さそうなものを選んでいく。その窓自体に最初からフィルターがかかっている場合がある

知人から、こんな話を聞いた。都心の高級住宅地の坂道を、親子が楽しそうに手をつなぎ、歌いながら歩いていた。子どもは7歳くらいの女の子で、私立小学校とおぼしき制服を着ている。母親はおとなしめの紺色のスカートスーツを着ている。遠くから見れば微笑ましい風景だ。

しかし歌詞が聞こえてきて戦慄を覚えた。「とーだい、きょーだい、わせだにけいおう! ○○、△△はもんだいがーい!」。○○と△△には有名私立大学の名前が入る。まるでテレビドラマのワンシーンのようだが、実話である。

清潔感のあるきちんとした格好で上品な母子。しかし歌っている歌は誰かを見下すような衝撃さ…(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock

この状況で、その女の子が「わたし、東大に行く!」と言ったところで、それは本当に彼女の選択なのだろうか。「だったら、中学受験でA中学か、B中学には入らないとね!」などと母親は言うのだろう。「あなたが選んだことだから、お母さん、全力で応援するから!」とも。

親自身が子どもに「ああしろ」「こうしろ」という指示はしない。あくまでも子ども自身に選ばせる。しかし子どもの選択は無意識の中であらかじめ狭められている。まるで「ソフトな洗脳」である。

いつの間にか子どもの前にはレールが敷かれる。いちどレールができてしまえばしめたもの。子どもがそこをそれようものなら「いまさら何を言っているの!? あなたがやるっていったんじゃない! 最後までやり通しなさい」と叱る正統な理由を親は得る