世界的ソリストが「マリンバ」を相棒に選んだ「たった一つ」の理由

聴き方も弾き方も豊かになる深い楽器論
ピアノやバイオリン、ギターにマリンバ……。数々の楽器が醸し出す独特の「音色」。
音色を考慮せずに作曲をする人はいません。楽器を学ぶことは、外国語を学ぶ際に単語量を増やすことにあたり、すなわち、音楽を成立させるための「語彙」を学ぶことなのです。


大ヒット御礼! 『作曲の科学』の著者、フランソワ・デュボワさんが、自身の専門であるマリンバを中心に、楽器の音色について語ってくれました。

音楽は、“科学的”な芸術だ!

芸術というものは一般に、定量化することが難しいものです。

たとえば、ある絵画の美しさを100として、これを基準に他の絵画の美しさを数値化する、というのは容易ではありません。まして、「誰もが納得するかたちで」となると、不可能といっても過言ではないでしょう。

このことは、音楽にももちろんあてはまりますが、ある一定の条件下では、定量化が可能だと考えています。そのカギは、音楽を構成する要素である「音」が、「振動」という物理現象であることが握っています。

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イメージを掴んでいただくために、昔話から始めましょう。

かつて私がジャズの作曲を教わっていた先生の一人に「楽譜に書かれている音符がすべて」という考え方の人がいました。「音符こそが最上級」なのだから、たとえ演奏する楽器の種類が入れ替わってもなんら問題はない、というのです。

私は、この考えにまったく反対です。

 

たとえば、「ドミソ」の長和音を例にとって説明してみましょう。この長和音を一つの種類の楽器でそれぞれ演奏する場合と、「ドはファゴット、ミはオーボエ、ソはフルート」のように一音ずつ担当を与えて演奏する場合とでは、まったく別の音色を与えることができます。

さらに、「ドがフルート、ミがファゴット、ソがオーボエ」と楽器を入れ替えたら、さっきとはまた違う音色になり、聴く者にまったく異なる印象を与えることができます。

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音は空気の振動ですが、楽器によって振動の仕方や共鳴の仕方が異なります。さまざまな楽器の組み合わせによって、掛け合わされる振動の種類が微妙に変化し、楽曲全体の印象を変えることが可能なのです。

極端にいえば、各楽器の立ち位置が変わるだけでも全体の音色が変化してしまいます。

そして、無数に考えうる組み合わせのなかから、最高の音色を引き出すのが、作曲家の脳内における仕事です。

作曲家の選択による最良の音(楽器)の組み合わせに、演奏家による精度の高い再現(演奏)が加われば、定量的な美しさを生み出しうる。音楽は科学的な芸術なのです。

楽器は、音楽の“語彙”である

作曲家にとって、楽器の個性を知ることは、曲作りのバリエーションを豊富にする“語彙”(ボキャブラリー)を増やすことに相当します。特定の楽器を徹底的に掘り下げて細部まで熟知する、あるいは、多数の楽器の個性の違いに精通することを通して、楽曲として表現できる幅が大きく広がるのです。

ここでは、私自身が曲作りの重要なボキャブラリーとして深く、長く付き合ってきた「マリンバ」についてお話ししましょう。

マリンバは木製の鍵盤楽器で、マレットとよばれる専用のばちで叩いて演奏します。木琴の一種といえば、想像しやすいでしょうか。

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マリンバとの出会いは、私が10代なかばのころでした。パリの国立コンセルヴァトワール(国立音楽院)で学びはじめる前に入学した地元・ヌヴェールの地方コンセルヴァトワールの打楽器科で、こなすべきレパートリー楽器の一つとして弾きはじめたのです。

打楽器奏者は一般的に、打楽器とよばれるものなら何でもこなせるように訓練されます。練習すべき楽器の数が膨大なので、一つの楽器の練習にかけられる時間は他の楽器奏者に比べて極端に少ないのが特徴です。

学生のあいだはとにかく大変ですが、いったんプロになってしまえば、さまざまな楽器が演奏できる便利な奏者として重宝されるメリットもあります。