映画「パラサイト」が描く、韓国のおそるべき「超格差社会」

これは、韓国だけの現象ではない
金 敬哲 プロフィール
 

「DJノミクス」で中産層が崩壊

韓国が本格的に格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけだった。「IMF危機」とは、財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものだ。

翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」をモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指した。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策だ。

つまり、公正な競争が行われるように市場のルールを定めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムを作るというのが政策の核心だった。

しかし、実際に金大中政権が実施した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりだった。こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻した。

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊し、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのである。

パリ訪問時の金大中大統領(2000年撮影・photo by GettyImages)

階層上昇が難しい「障壁社会」

韓国を代表する「進歩派」(韓国では左派をこう呼ぶ)の経済学者である柳鍾一(ユ・ジョンイル)韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院院長は、進歩系(左派系)メディアである「プレシアン」に次のような文章を寄稿している。

約20年前に韓国を襲ったIMF危機以降、韓国社会における最大のイシューは、二極化による「格差社会」である。

現在の韓国社会は、単に不平等なことが問題なのではなく、富と貧困が世代を超えて継承される点が際立った特徴となっている。

すなわち、世代間の階層の移動性が低下し、機会の不平等が深まり、いくら努力しても階層の上昇が難しい社会、すなわち「障壁社会」へと移行したのだ

たしかに、2018年に韓国の有力シンクタンクの一つである現代経済研究院が発表したアンケート調査の結果を見ると、「いくら熱心に努力しても、自分の階層が上昇していく可能性は低い」と考えている韓国人は、2013年が75.2%、2015年が81.0%、2017年が83.4%と、毎年上昇している。

柳鍾一院長が主張した「障壁社会」について、韓国人の8割以上が同意していると見ることができるだろう。

また、2018年6月に韓国保健社会研究院が発表した「社会統合の実態診断及び対応策研究」報告書によると 韓国人の85.4%が「所得の格差が大きすぎる」と思っており、80.8%が「人生で成功するには、裕福な家で生まれることが重要だ」と考えている。

深刻な不平等や格差は映画の中だけの話ではなく、韓国社会の現実そのものなのである。

これは、ただ韓国だけの話ではない

しかし、この超格差社会は、ただ韓国だけの現象ではない。

カンヌ映画祭のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ審査委員長は、パルムドールに輝いた「パラサイト 半地下の家族」について、「韓国を描いた映画だが、同時に世界的にも喫緊の課題をテーマにしており、ここにいる私たちすべての人生と関係のある主題を、ブラックコメディとして巧みに表現している」と評価した。

二極化や格差社会は、まさに全世界的な問題である。もちろん、日本も例外ではない。

かつては「最も成功した社会主義国」といわれた日本型資本主義だが、小泉純一郎政権以降、日本政府は新自由主義に大きく舵を切った。弱肉強食が当たり前になり、それに対してうしろめたさを感じることもなくなってしまった。寛容さは失われ、「自己責任」という言葉が力を持つようになった。

拙著『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)に書いた韓国社会の今は、遠くない未来の日本の姿かもしれない。