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孤独でもしぶとく生きる…底辺を這う人々の「リアル」

ライター・松本創の最高の10冊

本に体温を感じる

ノンフィクションライターを名乗っていますが、新聞社に入るまでは、ほぼ小説しか読まなかったんです。この10冊は、新聞記者になって5~6年の間に読んだノンフィクションが中心。

駆け出しの頃、自分の仕事を重ねつつ読んだものが、のちに自分がルポを書く際のイメージや視点を与えてくれた気がします。

不当逮捕』は戦後ノンフィクションの金字塔と言われる作品。昭和32年10月、読売新聞社会部のスター記者だった立松和博が売春汚職の誤報という汚名を着せられ、逮捕される。

当時同じ部の若手記者だった本田さんは、社歴の離れた立松に惹かれ、独特の立ち位置と視点を持って、この事件を追いかけていきます。

立松の側に軸足を置き、深い同情を寄せながらも、彼の弱さや脆さも冷静に見ている。一方で、検察や新聞社という権力構造の内部に深く切り込んでいく。徹底した取材はもちろんですが、その重層的な構成が見事です。文章は新聞記者らしく研ぎ澄まされていますが、情感豊かで体温がある。

 

実は、畏れ多くて今まで言えなかったのですが、『軌道』を書く時に最も意識し、こういうものを書かねばと目標にしたのが、この作品でした。

ただ、自分は事件記者ではなく、市井の人の話をじっくり聞いて記事を書く方が好きでした。『人の砂漠』は、地べたに生きる人たちの孤独な生き様が描かれ、深く感じ入ったルポ集です。