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アスリートにとって試合前の「高地トレーニング」が欠かせないワケ

意外な機能を強化していた

高地トレーニングの誤解

アスリートが2000~3000m程の高地で、長時間にわたる運動をおこなう高地トレーニングの様子を、テレビのニュースなどで観たことがある人は多いだろう。

酸素が薄い高地に行くと、体内の酸素が不足するため、運動能力が落ちてしまう。しかし、数日も経つと体が適応し始め、数週間後には平地と変わらない運動ができるようになる。こうして高地に慣れた体で平地に戻ると、いつも以上の能力を発揮できる。これが高地トレーニングの仕組みだ。

 

持久力がつくのは、酸素の薄い環境で肺活量を増やしているからだ、と思われがちだが、実はそうではない。高地トレーニングで鍛えられているのは、意外にも腎臓なのだ。いったいどういうことなのか。

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体内に酸素が足りなくなると、それを察知するのが腎臓だ。すると腎臓は、エポ(エリスロポエチン)という物質をさかんに放出する。この物質は、「酸素がほしい!」という腎臓からのメッセージを全身に伝える、いわば「メッセージ物質」だ。

このエポは血液の流れに乗って全身に広がり、骨で受け取られる。骨の内部は骨髄で満たされており、酸素を運ぶ赤血球が作られている。ここにエポが届くと、赤血球が増産され、体中に効率よく酸素を運べるようになるのだ。

面白いのは、赤血球を増やす作業は、脳からの指令によるものではなく、腎臓と骨髄が連携して、独自の判断でやっているということだ。

高地トレーニングで赤血球が増えた選手は、平地に戻っても、しばらく赤血球が多いままなので、激しい運動をしても筋肉が酸欠にならず、持久力が上がることになる。

しかし、平地では酸素が十分足りているので、腎臓はエポをあまり出さなくなり、徐々に赤血球の量は元に戻ってゆく。アスリートたちが大事な大会の直前に高地トレーニングの日程を組むのは、効果が切れないうちに良い結果を残すためだ。

腎臓は尿を作るだけでなく、実はオリンピックヘの切符も握っていたのである。(羽鳥)

『週刊現代』2019年12月21日号より