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なぜ織田信長は「日本人に最も愛される偉人」となったのか

703名の“信長”を調べて分かった
姫川榴弾 プロフィール

これからの信長、増え続ける信長

織田信長のように創作物の題材となる人物・キャラクターは他にも数多く存在する。架空の人物であれば、アーサー王物語のアーサー、シャーロック・ホームズ、実在の偉人であればフランスのジャンヌ・ダルクや江戸時代の剣豪・宮本武蔵、幕末の坂本龍馬や新選組などが挙げられる。

しかし、これらは皆、織田信長を題材とした創作物には及ばないことが予想される。ジャンヌ・ダルクなら“聖女・正義”、坂本龍馬なら“先見の明を持つ幕末の英雄”と、ある程度イメージが固まっているが、織田信長は無数のイメージを持ち、それらを組み合わせることで無数のバリエーションをもたせることが可能だからだ。主役だけでなく、凶悪・強大な敵役からちょっとした脇役まで演じることができる多彩な能力を持つと言える。

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例えば、「比叡山焼き討ち」「金箔加工を施した髑髏」の逸話のイメージを用いれば、敵役にふさわしい“魔王”に。「楽市楽座」「安土城の設計・見学料」の話から“ビジネスマン”、本能寺の変を光秀の私怨とすれば“短気で癇癪持ち”といった具合に、同じ織田信長でありながら全く別のキャラクターとして表現することができる。これはジャンヌ・ダルクや司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』(1963)の印象が強い坂本龍馬では出来ない芸当だろう。

また、「合理性を持つ」というイメージから、タイムスリップしてきた未来人を受け入れる織田信長や、織田信長自身が現代や異世界に赴き、活躍する創作物も多い。織田信長という存在は、それほどまでに活躍する場所を選ばない特異な存在になりつつある。

 

そして織田信長の脇を固める名脇役の存在も大事だ。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』の主役に抜擢された明智光秀を始め、味方陣営には羽柴秀吉、前田利家、柴田勝家、森蘭丸など。周辺諸国には今川義元、浅井長政、斎藤道三など、物語の主役としても映える、認知度が高く個性的な人物が揃っている点も大きい。

面白いことに、織田信長の持つイメージは歴史研究により増え続け、時代により変化している

近年では織田信長は短気な改革者ではなく、まめで保守的な人物だったいう研究成果もある。それらは創作物に反映されているのか、一昔前までは短気な癇癪持ちの織田信長は減少傾向にあり、近年では、目的の為なら手段を選ばない冷酷さと同時に、温情を併せ持つ織田信長の姿が見られるようになっている。