ラグビーW杯の熱狂から2ヵ月。被災地・釜石の人々の「大切な一歩」

W杯よりも困難な挑戦は続く
大友 信彦 プロフィール

「お祭り」ではない、持続可能なイベントに

スタジアムの中から、かわいい声が聞こえてきた。

黄色に黒の縞柄の衣装を着た子供たちが踊っている。郷土芸能の虎舞をアレンジした「こども虎舞」を、釜石の幼稚園児たちが踊っている。大きな拍手を浴びた子供たちは、そのまま花道を作って選手たちをピッチに迎えた。跳びはねる子。照れて下を向く子。隣の子とじゃれ合う子。たくさんのこどもが、思い思いの表情で、選手たちを迎える。

 
虎舞の衣装で、選手たちをピッチに出迎えた幼稚園児たち

ワールドカップ日本大会には「一生に一度だ」というコピーがつけられた。それは、この大会が、何年もかけて特別な準備をして迎えるお祭りであることを象徴していた。だが、ワールドカップが終わってから行われる、地元のチームである釜石シーウェイブスの試合は「お祭り」ではない。持続可能な、再生可能な、身近なイベントでなければならない。

「6000人集めよう」

ワールドカップが始まるよりも前の8月だった。この試合に向けた集客プロジェクトチームが立ち上げられたとき、発起人となった釜石シーウェイブスのGM、桜庭吉彦さんはこう呼びかけた。

行政や民間、これまでラグビーにはあまり関わることのなかった人たちにも声をかけて何度もミーティングを開き、いろいろな企業、団体、学校などに声をかけた。

人口3万人の釜石で6000人の観客を集めることは、人口の20%の観客を集めることを意味する。単純計算すれば、人口100万人の政令指定都市で20万人の観客を集めることに等しい。しかも釜石には、市境から連なる隣接都市はなく、大都市には必ずある新幹線などの高速交通機関や大きなホテルなど、多くの観客を集めるインフラがまったくないのだ。

それは、ワールドカップを成功させることよりも困難な挑戦かもしれなかった。

だから、釜石の人たちはいろいろなことを試した。

試合前には地元の小中学生チームの試合を組み、ワールドカップで世界のトップ選手が駆けた芝の上を地元の少年たちが張り切って走った。誰もがラグビーを気楽に楽しめるよう考案されたストリートラグビーの体験ブースでは、年齢性別を問わずたくさんの人に声をかけ、一緒にボールを追った。ワールドカップを盛りあげるため、開催スタジアムのある都市など全国各地を巡回した、トライポーズの写真を撮れる「トライフォトスペース」に長い列ができた。

シーウェイブスの試合前には、地元の中学生の試合が行われた

試合が始まると、スタジアムに、何とも言えないいい香りが漂ってきた。仮設スタンドが撤去されたゴール裏の原っぱに、ラグビーを観戦しながら港町・釜石ならではの新鮮なウニ、ホタテなどの海鮮バーベキューを楽しめる特別席が設けられていたのだ。試合が行われているスタジアムに、何とも言えない美味しそうな匂いが拡散させた。

特別席で海鮮バーベキューを楽しむ人々

ハーフタイムには、ラグビーの動きを採り入れたオリジナルのラグビー体操を子供たちが演じ、愛らしい姿に誰もが頬を緩めた。試合の後は、ピッチの中でラグビー体験会も開かれた。参加した人たちは皆、底抜けの笑顔で、世界のトップ選手が駆けた芝の感触を楽しんでいた。

地元釜石シーウェイブスのトライに沸くスタンド
スタンドには、新日鉄釜石の黄金時代を彷彿とさせる大漁旗が翻った

観客は、期待したほど伸びなかった。公式集計は2028人。「チケット持ってたけどもぎられなかったよ」という証言も多くあり、カウント漏れも多数ありそうだが、それが大量にあったとしても3000人には届かない。

「でも良かったかも」

集客プロジェクトチームで、物販、ケータリング、イベント準備などに尽力した釜石まちづくり会社の下村達志さんは呟いた。