「不自由な自営業者」たちが追い込まれる貧困の泥沼…これは日本の未来か

『家族を想うとき』とギグエコノミーの現在
望月 優大 プロフィール

二つの選択肢

映画はリッキーと運送会社のマネージャーとの「契約」のシーンから始まる。そこではリッキーが長らく建設業界で働いてきたことが語られる。リッキーは言う。当時の仕事は好きだったが、今は自分が自分自身のボスになったのだと。

ただし、この言葉をそのまま受け取ることはできない。リーマンショック以降の経済停滞の中で、建設関連の仕事は大きく減った。恐らく彼もその中で雇用を失ったのだろう。そしてマネージャーはそのことを見透かしている。だからこそ、リッキーに対して生活保護は受けているのか?と問う。リッキーはぎこちなく笑って否定する。自分にもプライドがあるからと。

 

契約について、マネージャーは言う。物事をはっきりさせておきたい。もしリッキーがドライバーとして契約を結ぶのであれば、彼は会社のために働く(work for)のではなく、会社と共に働く(work with)ことになるのだと。運送会社はリッキーを雇用するのではなく、一人の自営業者に仕事を依頼するだけなのだと。

そして、単純な確認事項であるかのように、車についての質問を重ねる。配達には自分の車を使うのか? それとも会社から借りるのか? 全ては自分次第だ。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

自由なリッキー、しかし車もお金も持っていないリッキーの前には二つの選択肢があり、そして二つの選択肢しかない。大きな借金をしてまで車を新しく所有するか、それとも車を借りて毎日の売上からレンタル代を賄うか。リスクの高い選択肢とリスクの低い選択肢、あなたならどちらを選ぶだろう?

車に「投資」する方を選べば、一時的に借金は膨らみ、月々の支払いはその分きつくなる。しかし、ドライバーとしての売上は丸々入ってくるし、晴れて借金を返しきったあかつきには車が自分の所有物になるのだ。