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井上尚弥は考える「過去のデータは過去でしかない」

スパーリングと試合は別のモノ
2019年11月7日、ノニト・ドネアとの死闘に勝利を収め、WBSS制覇を果たしたWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥。井上は日々、何を考え、また何を考えていないのかーー。
王者の思考に迫った著書『勝ちスイッチ』から、その一部を紹介する短期連載。第3回は、井上はなぜ敵の過去のデータにこだわらないのか?

敵の情報はリング上で収集する

試合が決まっても事前に対戦相手の映像は細かくは見ない。

ボクサーによっては繰り返し映像をチェックして癖や弱点を見つける人もいると聞くが、僕の場合は、本当に、さらっと1、2ラウンドだけを見て終わり。どういうスタイルで、どういう雰囲気で試合をするのか、を大雑把にチェックするだけだ。

 

後は本番。リング上で向かい合った時の感覚、察知力を研ぎ澄ますため、あえていらない情報を排除しておくのだ。

WBSSの準決勝で対戦したIBF世界バンタム級王者、エマヌエル・ロドリゲスの場合、彼が2018年10月に米国フロリダ州オーランドでジェイソン・マロニー(豪州)と対戦したWBSS1回戦の試合を現地に足を運んで見たが、それ以外は、ユーチューブに上がっているダイジェスト版の映像しか見なかった。

ただダイジェスト版は、相手をダウンさせたシーンなどのハイライトシーンを集めているので、めちゃくちゃ強く見える。ついつい相手を過大評価しがちになる。

敵の情報はリング上で収集する。

どこで? いわゆる五感だ。全身からレーダーを照射して相手をロックオンするイメージだろうか。リング上で対峙したとき、どこか一か所に焦点を絞ることはしない。ぼんやりと全体を見る。

その中で、相手の目はどこを見ているのか、肩はどう動くのか、呼吸はどうか、足の位置はどこにあるのか、重心はどうなのか、あらゆる情報を一瞬にして、五感で感じ取って収集し、その情報の処理をスーパーコンピューターばりに高速で行う。