# ボクシング # 井上尚弥

井上尚弥が「ゾーン体験は狙わない」と決めている理由

大事なのは、継続の質
2019年11月7日、ノニト・ドネアとの死闘に勝利を収め、WBSS制覇を果たしたWBA、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥。井上は日々、何を考え、また何を考えていないのかーー。
王者の思考に迫った著書『勝ちスイッチ』から、その一部を紹介する短期連載。第2回は、井上はなぜ「ゾーン」にこだわらないのか?

継続は力なり

継続は力以上のモノを発揮することがある。

継続は力なり、というが、時には、継続することで持っている力以上の何かを発揮することがあるのだ。続けることは大切だが、その日々の努力の積み重ねの濃度が濃ければ、知らぬまに爆発的なエネルギーを蓄えていくのだろうか。

 

僕は、それを体感した。ステージが整い、相手の息遣いや瞬きの音さえ感知できるほど五感のアンテナを張り巡らせると、瞬間、信じられないことが起きる。

そのひとつの形がゾーンと呼ばれる状態なのだろう。

アスリートは不可思議な異次元空間を体験することがある。僕も2度、ゾーンを体感した。

一度目は、2014年12月30日に東京体育館で、WBO世界スーパーフライ級王者、オマール・ナルバエスに挑戦した試合。フィニッシュは2ラウンドの左ボディだった。実は、その前に同じ左のパンチで脇腹をえぐっている。

左を上下に連打したとき背中を丸めた。もう一度、同じ入り方をすれば、同じようにロープへ下がる姿が読めたのだ。

左の捨てジャブ2つから、右のストレートを真正面から打って、十分にガードを上げさせておいてからの左ボディ。脇腹がきしむほどの衝撃に正座して座りこんだアルゼンチンの王者は、そのまま動かなかった。

しかし、それは、パヤノ戦で感じたものと比べると、まだゾーンの入り口、序章に過ぎなかった。