人気漫画『ハートカクテル』、35年以上描き続ける作者のすごい人生

すべてはサラリーマン兼業から始まった

鮮やかな色彩と洗練された画風で80年代の若者の恋愛を描いた漫画『ハートカクテル』。2019年、作者のわたせせいぞうさんは画業45周年を迎えてなお最前線で活躍しているが、じつはかつてはサラリーマンと兼業しながら『ハートカクテル』の連載をしていたことをご存じだろうか。

最近では『ハートカクテル』出版35周年を記念した豪華画集『わたせせいぞう画業45周年 ハートカクテル 35th Anniversary A collection of works』が受注生産で発売されるなど、長く愛される作品を続けられる秘訣とはなにか――。今回わたせさんが貴重なインタビューに答えて、これまでの作家活動を振り返りつつ、今後の展望、ファンへの思いを語ってくれた。

インタビューが行われたのは2019年10月にオープンした「わたせせいぞうギャラリー白金台」で。古いピアノやワインや花束など、わたせ先生が描く世界観を再現したような空間で、作品の展示・販売などを行っている。2019年11月には「わたせせいぞうギャラリー武庫之荘 with ダ・ヴィンチ」も大阪にオープン。詳細はホームページで。http://apple-farm.co.jp/gallery_f.html

会社員との兼業から生まれた「憧れの世界」

--『ハートカクテル』出版から35周年ということですが、当時、この作品にどんな思いを込めていたのでしょうか?

連載が始まったのが1983年で、当時はサラリーマンをしながら漫画家と兼業していました。僕は保険会社の営業担当で、それは毎月、数字を出さなくてはいけない仕事だし、特に保険会社では、今と違って副業なんて認められない時代だったんです。

でも、僕は営業では数字を残しつつ、お客さんに渡すパンフレットや資料に自分のイラストを使うなどして会社にも還元していたので、会社はなんとか兼業を認めてくれました。そんなギリギリの環境だったし、現実はサラリーマンとしての平凡な日々だったんですけど、せめて作品の中では「こんな夢があったらいいな」という世界を描いて、サラリーマンとして同じ空気を吸う人たちの代弁者になれたらなという思いで描いてました。

 

--社内での反響は?

自分から漫画を描いていることを積極的に周囲には言わなかったんですが、社内では知られていたみたいで、若い社員たちが応援してくれましたね。とてもありがたいことだったと思います。

僕は、サラリーマンとしての最後はある支社の支社長だったんですが、普段はほとんど僕に声をかけない若い社員が「支社長、先週の『ハートカクテル』よかったです!」と言ってくれることもありました。僕の境遇を理解している彼らが「支社長の成績を落としてはいけない」とバックアップしてくれましたし、ほかの会社の方や全国のお客さまからも「がんばってください」と応援の言葉を…。サラリーマン時代はそんな言葉に鋭気をもらいましたね。