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医学を諦めていた・・・重い肩こりに悩む男性の症状が改善した理由

谷川浩隆の「歩いて治す」診療室
谷川 浩隆 プロフィール
 

秘めた「怒り」の感情が痛みの原因に

肩こりには独特の不快感があります。痛いだけでなく、張ったような重だるさを伴います。時には頭痛や首すじの痛みも出てきます。なかなかうまく説明できないのですが、日本人なら「肩こり」といえば誰でもその感じはすぐわかります。

英語では肩こりにピタッと合致する言葉がみつかりません。グーグルの自動翻訳で出て来るスティッフ・ショルダー(stiff shoulder)、つまり「こわばった肩」というのが近いでしょうか。

首から肩にかけては多くの疾患があります。変形性頸椎症や頸椎椎間板ヘルニア、首の周囲の神経や血管が締めつけられる胸郭出口症候群、あるいは肩の関節がかたくなる肩関節周囲炎などです。これらの疾患からも肩こりは生じることがありますが、一方、肩こりの大部分はこれらによるものではありません。Cさんのように原因が特定できないものがほとんどなのです。

このような状態を頸肩腕症候群といいます。昔は「けいけんわんしょうこうぐん」と呼んでいましたが、今ではわかりやすく「くびかたうでしょうこうぐん」ということもあります。

日本人は勤勉です。自分を主張するより、じっと耐えることが美徳とされます。会社での職務内容、家庭でのトラブルなどあらゆることについて、耐えてがまんする傾向があります。

Cさんもそうですが、肩こりの患者さんはまじめな方が多く、パソコンに長時間向かう仕事であったり、または家庭内で親の介護を長年にわたって続けていたり。お話を聞くだけで「大変だなあ」と思ってしまう境遇の方が多いのです。

こころの中に生じた怒りを、自分の中にため込んでしまう。肩こりは日本人の特性を反映した症状です。英語に「肩こり」がないのが象徴的です。

原因が特定できない、すっきり治しにくい、という特徴がある肩こりですが、そのことに対して「万能でない医学に対する怒り」がこみ上げてくる患者さんに限って肩こりは慢性化して治りにくい傾向があります

Cさんは各種の検査で明らかな異常はないのに、肩こりがとても強く、どこへ行っても治らないため気分が塞ぎ、苛立っていました。日常生活では表には出さないけれど、Cさんは治らない肩こりへの「怒り」を秘めていたのです。

肩こりに限らず腰痛や関節痛などすべての運動器疼痛に「感情」は関係します
長い期間肩こりや腰痛に悩み、いくつものクリニックや病院を転々と受診している患者さんに共通なのはこの「怒り」の感情です。

「なんでどこに行っても治らないんだ」「どうせ、ここでも同じようなことをいわれるんだろう」といった感情を患者さんから感じ取ることはよくあります。
「医学は万能ではない」という事実をまずしっかりと認めて「では、どうしたらいいか」を、苛立たずに余裕をもって考えることができるようになることが、治療の第一歩です。

できないことに怒りをぶつけるのではなく、自分で少しでもできることは何だろうか、と積極的に考えられるようになれば、長年悩んでいた腰痛や肩こりにもひとすじの光明が差してくるのです。

自律神経が「こり」のカギ

なぜ、「怒り」が治まると、慢性の肩こりがよくなるのでしょうか?
首すじから肩の関節にかけて僧帽筋という筋肉があります。肩をすくめたり腕をあげたりする筋肉です。頸部には僧帽筋のほかにも棘上筋や肩甲挙筋、頸板状筋などたくさんの筋肉があります。

肩こりに関係する頸部から背部の筋肉


これらの筋肉がこりだすと、それに伴って頭痛、顔のほてり、不眠などが出てくることがあり、気分が憂うつになったり、意欲の低下やネガティブ思考が出てきます。過重労働や運動不足、無理な姿勢など、肩まわりに負荷がかかる状況が続くと肩こりはさらに重くなってきます。

頸椎の周辺は人体の中でも最も密に神経や血管が集まっています。ストレスを感じると自律神経が働いて血管を収縮させます。

血流が十分にいかなくなると筋肉はかたくなり、痛み物質が筋肉内に蓄積されてきます。すると痛み物質による痛み自体がストレスとなって自律神経を刺激し血流が悪くなる、という負の連鎖が起こってしまうのです。

このような症状が長く続いていると、次第に気分が落ち込み意欲が低下して、悲しく暗い気持ちに支配されていきます。するとこのようなネガティブな感情が、さらに自律神経を介してからだのだるさや不眠、全身の痛みといった症状を増幅させていく悪循環になります。

私は以前、学会誌でこの状態を「こころとからだのデフレ・スパイラル」と名づけました。デフレ・スパイラルは経済学用語ですが、「デフレ」には「萎えさせる」という意味があります。自律神経を介して、こころとからだがお互いに負の連鎖をして、心身ともに「萎えさせる」状況が起こるのです。

このようなことは肩こりだけでなく腰痛にも起こります。この負の連鎖を断ち切れば肩こりも腰痛もよくなっていきます。

それでは自律神経と痛みの関係を次の項から見ていきます。

後篇は近日中に公開予定!

谷川 浩隆(たにかわ・ひろたか)
1962年松本市生まれ。信州大学医学部卒業。癌研病院、信州大学などに勤務後、安曇総合病院副院長。医学博士。
1998年から、整形外科の臨床をしながら精神科の研修を受け、腰痛、肩こり、関節痛などの運動器疼痛をめぐる心身医学的アプローチの臨床と研究に従事、「心療整形外科」を提唱。2007年~信州大学医学部臨床教授。2013年7月に谷川整形外科クリニックを開設、院長に。著書に『腰痛をこころで治す 心療整形外科のすすめ』(PHPサイエンス・ワールド新書)がある。