味の決め手は「鼻」!?「味覚と嗅覚」の相互作用、ここまでわかった

認知症早期発見に光「味の科学」
産業技術総合研究所 プロフィール

小早川さんがおこなった実験は、2つの感覚刺激が同時に起こっているかどうかを被験者に判断してもらう「感覚の同時性判断」というものだ。これは2つの刺激を同時に、また、少しずつ間隔をあけて被験者に与え、2つの刺激が同時にきたと感じた場合にそう答えてもらうものである。

 

これまで「視覚と聴覚」「視覚と触覚」「聴覚と触覚」という物理刺激+物理刺激の組み合わせではおこなわれていたが、「視覚と味覚」「視覚と嗅覚」「味覚と嗅覚」という物理刺激+化学刺激、あるいは化学刺激+化学刺激という組み合わせのものはなかった。小早川さんはこれに取り組んだ。

視覚へはLEDライトの点滅で刺激を与え、味覚と嗅覚については、独自に開発した装置を用いて舌や鼻に刺激を与える。

2つの刺激を与える間隔は、同時、0.1秒差、0.2秒差……1秒差と一定の間隔で広げていく。たとえば、LEDがピカッと光った0.1秒後に味がきたとき、同時にきたと感じるか、それとも味の方が遅くきたと感じるか、ということを判定してもらうのだ。

1秒も間が開いていれば、誰でも同時ではないと気づくだろうと思われるが、結果はどうだったのだろうか。

「視覚と味覚、視覚と嗅覚という物理刺激と化学刺激の組み合わせの場合は、0.4秒程度の間隔が空けば、多くの人は刺激がバラバラにきたと気づきました。

それに対して味覚と嗅覚という化学刺激同士の組み合わせでは、2つの刺激の感覚がより長くないと、バラバラにきたと認識されにくいという結果になりました。1秒差があっても、同時に来たと認識する人もいたぐらいです」

グラフの傾きが急であるほど、2つの刺激が同時かどうか正確に判定できたといえる。化学刺激同士となる[味覚と嗅覚]を組み合わせた場合、他と比べてグラフの傾きがなだらかになっており、2つの刺激が同時かどうか判定するのが難しいといえる。 ©国立研究開発法人産業技術総合研究所
拡大画像表示

この実験結果から、「私たちは味覚と嗅覚の違いを認識しにくい」という傾向がみられる。さらに、味覚と嗅覚が密接に結びついている刺激、たとえば塩味と醤油の香りの組み合わせでは、味覚と嗅覚を別のものとして感じにくいという傾向が顕著に表れた。

Photo by iStock
拡大画像表示

塩味と花の香りというように少し違和感がある組み合わせではバラバラに刺激がきたと認識しやすいが、なじみがある組み合わせだと、人は、それが味覚なのか嗅覚なのか、はっきり分けて認識するのが難しいのだ。

マッチ条件として設定した「醤油の香り」と「塩味」という日常生活になじみの深い組み合わせでは、「醤油の香り」の刺激を受けてから、0.4秒と比較的長い時間が経ってから「塩味」の刺激を受けても、6割の人が同時に刺激されたという認識を持つことがわかる。 ©国立研究開発法人産業技術総合研究所拡大画像表示

「この結果から、私たちがものを食べ、味を楽しむときには、味覚と嗅覚をともに働かせていること、味覚には嗅覚が大きな刺激を与えていることがうかがえます」

オリジナルの装置を開発

先ほど、感覚刺激の同時性を判断する実験の紹介において、当たり前のように「味覚刺激を与える」と書いたが、じつは、味覚刺激だけを与えるということは、いうほど簡単なことではない。