Photo by iStock

味の決め手は「鼻」!?「味覚と嗅覚」の相互作用、ここまでわかった

認知症早期発見に光「味の科学」
日本人は味に敏感だと言われ、「だし」に代表されるようないろいろな味をつくりだしてきた。しかし一方で、「味」を認知するメカニズムについては、科学的な究明が進んでいるとは言いがたい。産総研では、独自の測定装置などを用いて、多角的な手法でこの解明に取り組み、嗅覚が「味」におよぼす影響の大きさや、「味」の認知と文化の関係を明らかにしている。

この研究は、食品や調味開発などに活かされることはもちろん、将来は認知症予防など医学分野での貢献も期待されている。産総研人間情報研究部門人間環境インタラクション研究グループの小早川達さんにお話をうかがった。

産総研LINK[2019.11 No.27] より)

味覚と嗅覚で「味」を感じる

「味覚と味は別物であり、“舌から入ってくる情報”である“味覚”と“鼻から入ってくる情報”である“嗅覚”を合わせて私たちは『味』を感じているのです」

 

そう話すのは、味覚と嗅覚の相互作用に関心をもち、それらの認知メカニズムの解明に取り組む人間環境インタラクション研究グループの小早川達さんだ。

たとえば風邪で鼻が詰まっていると食事の味がよくわからない。誰にもそんな経験があるだろう。味がわからなくなるのは舌の感覚が鈍くなっているからではなく、鼻が利かなくなっていることに原因がある。

その証拠に、ガムでもチョコレートでも、鼻をつまんだまま食べてみてほしい。甘いとは感じていても、いつもと違う味だと感じるだろう。じつは、それが純粋な「味覚」なのだ。

では、鼻をつまんでいた手を放してみよう。突然ふわっと別の感覚が広がり、「味」に変化が生じるのがわかるだろうか。その変化は、嗅覚が加わったことによって起こる。

味には基本的な要素として甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の「基本五味」がある。これらは口の中にある、味蕾(みらい)と呼ばれる味細胞の集合体によって感知される。これがいわゆる味覚だ。

一方、嗅覚は鼻の奥にある鼻粘膜ににおい成分の分子が着くことで、脳に神経伝達されにおいを感じる。

「味にかかわる感覚は、味覚と嗅覚だけではありません。唐辛子の辛味の主成分であるカプサイシンは、味細胞ではなく痛覚を刺激することがわかっていますし、食感や見た目も食べ物の重要な要素なのは言うまでもありません」

Photo by iStock
拡大画像表示

つまり、味というのは味覚にとどまらず五感すべてを使って感じるものなのだ。だから、味覚センサーでは、味覚を刺激する物質の有無などをはかることはできても味をはかったとはいえないのだ。

通常、動物は苦味や酸味の強いものを好んで食べることはない。苦いものや酸っぱいものは「有毒である可能性有り」と認識し、命を守るため、それらを本能的に避けるからだ。

「しかし人間は、コーヒーやゴーヤなど苦いものも毒物だと思わず、喜んで口にします。人間がものを食べるという事は、生きるためにエネルギーを摂取するという目的がすべてではなく、おいしく食べて快さを感じることも重要な要素であるわけです」

Photo by iStock
拡大画像表示

それが動物と人間の大きな違いだ。だから、動物を使って味覚に関する実験はできても、味についての実験はできない。では、人間が「味」をどう感じているかを測定し、そのメカニズムを追求するには、どのようにすればよいのだろうか。小早川さんは、この難問に挑んできた。

味覚と嗅覚の研究を切り開く

小早川さんは五感を使って感じる味において、嗅覚の重要性に着目した。影響がありそうだ、ということは冒頭に鼻をつまんで試したことで感覚的にはわかる。しかし、触覚(触った感じ)、視覚、(光、電波を感じる)、聴覚(音波を感じる)の物理的な刺激を受けて生じる感覚と異なり、化学物質の情報が刺激となる味覚と嗅覚は、科学的にその関係性を示したデータがほぼ存在していなかった。