私はその言葉に納得しましたし、ホスピスという場にも喜怒哀楽、いろんな人間味あふれる日常や感情的な出来事があることを知りました。
亡くなるからすべてが苦しい、すべてが悲しいではなく、最後までうれしいことや楽しいことがあっていいはず。そんな最後の楽しさを味わうことで人生が幸せに終われるなら、それが理想的ではないでしょうか。
死が満たされたものであれば、本人の人生も肯定されていくと思いますし、見守る周囲も救われるのではないか、と思います。
―ライオンの家の代表のマドンナ、ペット犬の六花、調理担当の老姉妹といったスタッフの支えにも心温まります。
自分の人生に寄り添い、支えてくれた人たちとの思い出は、やはりかけがえのないものですよね。「最後のおやつ」はそこに結び付けてくれるツールのようなものです。
今回、この本の出版後にいろんな方に伺っているんですが、最後のおやつは意外にパッと思いつかないようですね。
私の場合はいくつか候補があって、ひとつは祖母の焼いてくれたホットケーキなんです。祖母のおやつは昔ながらの素朴なものばかりで、ある日文句を言いました。そうしたらストーブの上で焼いてくれたことがあったんです。
たぶん祖母が人生で初めて作った「ケーキ」。味よりもその思いがうれしくて。あれをもう一度食べてみたいと思います。

―そんな素敵な記憶を呼び起こすのが、おやつなんですね。味わい深いです。次作の構想もあるようでしたら、お聞かせください。
私は作品を一作ずつ、自分のお腹に身ごもって育むという感じで、一、二年かけて執筆するスタイルです。今、お腹は空っぽ(笑)。先は未定です。
ただ今回の作品では自分なりのエリアから飛び出せた気がしていますので、さらに高く険しい山にも取り組んでいきたいな、と思っています。(取材・文/窪木淳子)
『週刊現代』2019年12月7・14日号より