テスラの成功が示した「営業マンはもういらない」の残酷な現実

ある資本家からの問いかけ②
三戸 政和 プロフィール

片翼を手放したテスラ

テスラは自動車メーカーではあるが、通常の自動車メーカーとは大きく違う。その違いのひとつが、「テスラはディーラーを持たない」という点だ。

ディーラーとは車の販売とアフターサービスを専門的にする会社で、たいていの自動車メーカーにはそれぞれ、系列のディーラーがある。ディーラーとメーカーとは別の会社だ。

車の販売においては、ディーラーによるセールス活動、つまり「営業」は当然必要なものと考えられている。ディーラーによる営業があるからこそ、車が売れる。それ故、ディーラーの営業マンたちは競い合うように営業技術を磨く。高級車のディーラーに至っては、顧客に対して過剰ともいえるくらいの対応をする。

いい香りのする落ち着いた雰囲気の店内。ゆったりとしたソファーで、飲物などのサービスを受けながら、懇切丁寧な説明を聞き、試乗もできる。納車の際には“納車式”なるものを催すディーラーさえあるという。

実はこのディーラーシステムというのは、メーカーにとってはメリットが多い。メーカーが作った車はタイムロスなくディーラーが買い取ってくれる。それによってメーカーはすぐに資金の回収ができて、在庫を抱えることもない。

だが消費者にとってはどうだろうか。メーカーと消費者の間にディーラーが入るということは、中間マージンを取られるということだ。それだけ車の価格は上がる。またメーカーは販売促進のため、ディーラーに販売奨励金を支払うことが多い。それもメーカーの経費であり、車の価格に反映されているはずだ。

要するにディーラーという存在は、メーカーには大きなメリットがあるが、消費者にとっては、丁寧なセールスやアフターサービスを受けられるというメリットがある一方で、価格の面ではデメリットになるということだ。

一方、テスラはと言うと、自動車メーカーでありながらもディーラーはない。車はすべてテスラによる直接販売だ。

【PHOTO】gettyimages

もちろん直接販売にも経費は掛かっている。テスラはアメリカ国内におよそ130の販売店を持ち、そこでは営業活動が行われ、そのための人件費や販売店の維持経費などは掛かっていた。

ディーラーを抱えることに比べればコストは低いが、しかしテスラは、全販売オンライン化によって、それすらもやめるという。

すでにテスラのサイトでは、車をクリックひとつで購入できるようになっている。カラーバリエーションや内装、オプションなどを選んで、好きなようにカスタマイズして注文可能だ。車の試乗はできなくなるが、車が納車されてから1週間以内か、走行距離1600キロメートル以下なら、返品と代金の全額払い戻しが受けられる。

イーロン・マスクによると「車を買いやすい価格で提供するためには、小売部門の社員数を減らす以上の策はない」という。テスラの販売店や世界各地の販売拠点は、閉鎖もしくはリニューアルをして、ショールームやサービスショップになる。そこで働いていた従業員も減らす。これによって全車種の価格は3%程度下がるという。

つまりテスラは、全販売のオンライン化によって、営業マンによる営業から完全に撤退する。ほかの自動車メーカーでは、ディーラーの営業マンによる営業は販売の一翼だ。テスラはその一翼をなくして、ほかの自動車メーカーと戦っていくことを宣言したわけだ。ということは、テスラからは今後、営業が生みだす「公害」は発生しないことになる。

営業だけではない。テスラには広告宣伝もない。販売のための両翼を失った状態で、果たしてテスラは勝てるのだろうか――。私はそれが可能だと思っている。その理由を述べていけば、営業がいらない理由もわかってくるはずだ。

では、それでもテスラが勝てる理由とはなにか。初めにシンプルに言ってしまおう。それは、いまが自動車業界始まって以来の大変革期であり、テスラはその対応で、ほかの自動車メーカーを大きく引き離しているからだ。