営業マンが「絶滅危惧種」になっていることに気づいていますか

ある資本家からの問いかけ①
三戸 政和 プロフィール

医療界を席巻する「MR君」

テクノロジーが人の果たしていた営業的機能を代替するという事態は、医療業界の変化からも見て取れる。製薬会社のMR(医療薬事情報担当者。ごく簡単に言うなら、病院や医師に最新医療機器や薬品を売る営業マンだ)がどんどん減っているのだ。

MR認定センターのまとめによると、MRの数は2013年度の6万5752人をピークに、5年連続で減少し、2018年度末で5万9900人。とくに2018年度の減少は過去最高で、全体の4.1%にあたる2533人だったという。新卒採用の抑制も続いていて、19年春では、製薬会社の6割はMRに新卒を採用していない。

MRの減少傾向について、MR認定センターは、デジタルチャンネルを通じた情報提供が広がっていることを理由のひとつに挙げている。

MRと言えば、営業マンの代表格とも言える存在だ。いつも病院のどこかに潜んでいて、医師に接触するタイミングを見計らっている。チャンスと見るや医師に近づいて、自分の会社の医薬品を売り込む。夜は高級クラブで医師を接待し、医師の家族の誕生日には高級品を贈る。「これぞ営業マン」というのがMRのイメージだ。

しかしそのイメージはもう過去のものになりつつある。いまやMRはデジタルチャンネルの中に移行しつつあるのだ。

 

そのデジタルチャンネルこそ、エムスリー社が提供する「MR君」というサービスだ。MR君には製薬会社から提供された医薬品情報の動画や静止画のコンテンツが掲載されている。いま、MR君はアプリで提供されている。Yahoo!のニュースアプリのようなイメージで、情報がとても見やすい。

製薬会社はこれまで、自社の医薬品についての情報を、MRを通じて医師に届けていた。MRはその医師の専門性や性格、所属病院などの個別条件を理解しながら、接待攻勢も含めて営業活動を行い、薬の発注につなげていた。

しかしその営業活動があまりに過剰になったことが問題視され、業界でルールを作って自主規制が進み、MRの活動範囲は狭められていった。その間隙を縫うようにして、MR君のサービスは広がっていったわけだ。

【PHOTO】iStock

現在、MR君を利用する医師は26万人、国内の医師の9割近くに上る。それだけの医師がMR君を通じて、医薬品の情報を得ているということは、製薬会社にとっては、MR君を使った営業の重要度がますます増しているということだ。

MR君を使うことは、製薬会社にとっては経費削減にもつながっている。これはエムスリーのデータであるが、医師に情報を認識してもらうためのコストは、人間のMRの60分の1(!)で済むという。

さらに人間の場合、担当MRによって情報のばらつきがどうしても出てしまうが、MR君では、本社管理での情報提供となるので、そのばらつきはなく、精度も高くなる。

そして、ここが重要なポイントになるが、MR君は単純に医薬品情報が載っているだけの情報サービスではない。MR君には医師や病院のデータベースが備わっており、そこには、医師や病院について、それぞれの専門性や特徴、薬の購買状況、情報の閲覧状況などのデータが随時、蓄積される。これらのデータによって、MR君の提供する情報や提供の仕方は変化する。

要するに、人間のMRが相手の医師に合わせた情報提供や営業をするように、MR君も医師ひとりひとりにカスタマイズされた形で、その活動内容を変えるわけだ。

エムスリーがMR君の開発で目指したのは、「MRの営業活動をそのままインターネットで実現すること」だったが、その目的はほぼ達成していると言えるだろう。

結果、MRの仕事はどんどん浸食され、MRの数は減り続けている。このようにBtoBにおける営業においても、テクノロジーによる代替が進んでいるのだ。