五輪直前!ドーピング違反を追及する“特命”部隊が結成されていた!

微量薬物も見逃さない秘密兵器とは?
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

WADAが実施するドーピング検査数は毎年、30万件にもおよぶ。それを世界の分析機関が分担することになる。

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、日本の分析機関が中心になるだろう。そのための準備は、もうすでに始まっているのだ。

物質の成分ごとに精密分析

井原さんの話に戻ろう。

ドーピング禁止薬物を検出するための「ものさし」を提供しているということだった。

「ドーピング禁止薬物のように、物質の検出をするためには、その物質ごとに『秤(はかり)』を用意しなければなりません。1つの秤で、肉も野菜も計れるわけではないのです。テストステロンを検出したいなら、テストステロン用の秤を準備する。これはドーピング検査に限らず、化学分析の世界ではみな同じです」(井原さん)

物質の成分ごとに、違う秤を使って測っている……!? たいへんですねえ。

「そうです。たとえば精肉店の秤は、それ自身が100gという重さを知っているわけではありません。100gの分銅を秤に載せて、その目盛りを100gに合わせて使います。

これを専門用語で『校正』といいます。その秤が正しいかどうか、定期的にこの校正をおこなって、確認しているのです」

そういえば昨年の探検で、やはりここ産総研で「キログラム原器」改訂の話をうかがったときにも、校正という言葉を聞いた。

1キログラムは当時、白金イリジウム製の「国際キログラム原器」を基準として、130年間にわたって使われつづけていた。その原器を、物理定数に置き換えようというのがキログラム原器改訂の話で、2019年5月に実行に移された。

国際キログラム原器の3Dレンダリング Photo by iStock
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スーパーに置いてある秤も、1キログラムを元にした精巧な分銅を載せて、定期的にこの校正がおこなわれている。

化学は物理より「面倒くさい」

このように校正が施された秤が、あらゆる物質の成分ごとに必要なのですか?

「必要です。残留農薬にしても、ドーピング検査にしても、禁止されている物質を正確に検出できなければ、検査の意味がなくなってしまいます。

もし、ものさしが不正確だったために、本来の値の半分を基準値としてしまったなら、検出した値は2倍に出てしまいます。セーフの人もドーピング違反になってしまう可能性がある。正確なものさしを用意することは、それほど重要なのです」

1つの分銅を精巧にコピーしていくのでは成り立たない世界だ。

「物理系の科学者にはよく驚かれます。どうして『キログラム原器』だけじゃダメなんだ? と。でも、そこが化学の面倒くさいところで(笑)、物質によって別々の原器をつくる必要がある。

この、物質ごとのものさしを『標準物質』とよびます。私たちの仕事は、それをつくって頒布することです」

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