東京オリンピック・パラリンピックの開催が目前に迫っているが、国際スポーツ競技に欠かせなくなったドーピング検査体制の話はなかなか報道されないものだ。
前回、2016年リオ大会では、ロシアの組織的なドーピング問題が注目された。事態が改善されていないことから、ロシアは東京大会にも参加できない見込みだ。
選手や競技団体の将来さえ左右しかねないドーピング検査は、実際にどうやっておこなわれているのか?
その科学的な裏付けは、どのように担保されているのか?
前回、2016年リオ大会では、ロシアの組織的なドーピング問題が注目された。事態が改善されていないことから、ロシアは東京大会にも参加できない見込みだ。
選手や競技団体の将来さえ左右しかねないドーピング検査は、実際にどうやっておこなわれているのか?
その科学的な裏付けは、どのように担保されているのか?
禁止薬物をどう検出するか?
ブルーバックス探検隊は、産業技術総合研究所に2018年に開設された「ドーピング検査標準研究ラボ」を訪ねた。
ラボがあるのは、計量標準総合センター物質計測標準研究部門。ラボ長は、上級主任研究員の井原俊英さんだ。所属部門の硬い名前に対して、井原さんの物腰は柔らかく、こちらの緊張感をほぐしてくれる。

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開口一番、井原さんが説明してくれたのは、意外な話だった。
「じつは、私たちが実際にドーピング検査をおこなっているわけではありません。尿や血液の分析は、専門の分析機関がおこないます。私たちは、ドーピング禁止薬物の分析に関わる『ものさし』を提供しているのです」
ものさし、とはなにか。
たとえば、筋肉増強剤としてはたらくテストステロンを、確かにこれはテストステロンだと認定するための物質を、井原さんは「ものさし」と喩えている。正確なものさしがなければ、厳密な分析はおこなえないからだ。
探検隊のメンバーは、選手から採取した尿を機械に入れると判定が出る、といった程度の想像しかしていなかったが、検査のしくみは複雑なようだ。ここは、もう一度ドーピング検査の手順を振り返ってみよう。
「誰のものかわからない」尿や血液を調べる
ドーピング検査は、専門の検査員が選手から尿や血液の「検体」を採取し、それが分析機関に持ち込まれて分析されることでおこなわれる。分析機関には、その検体がどの選手のものであるのかはわからないようになっている。非常に厳密で公正な体制を組んでいるのだ。

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ドーピング禁止薬物は公表されており、その数は数百種類にもおよぶ。1968年にオリンピックで初めてドーピング検査をおこなったときに指定された約30種と比較しても、ドーピングをめぐる攻防が、きわめて複雑な様相を呈していることが想像できる。
最近では、こんなニュースがあった。