とうとうこの日が……

11月21日。ドラフト会議の日。秀喜は報道関係者が大勢詰め掛ける中いつものように登校した。決意はできていた。

――ドラフトという制度がある限り、じたばたしても始まらない。自分を望んでくれる球団が希望球団だ。

ドラフト当日の登校風景。1992年11月21日のことだった。『ひでさん〈松井秀喜ができたわけ〉』より

午前11時。秀喜は授業を受けていた。窓側の1番前の席に座っていた。指定席だ。黒板の前に立つ先生からはきっと死角だろうと秀喜は好んでこの席を選んでいた。そういえば、授業中につい居眠りをして、椅子から転げ落ちて大笑いされたこともあった。そんなお茶目なところもあったが、今日はそんな場合ではない。心を引き締めて、その時を待つ。席のそばには色紙が高く積み上げられている。

「巨人だ、巨人みたいだぞ」

秀喜の耳に飛び込んできた。誰かが携帯用のラジオを教室に持ち込んで聞いていたのだ。

胸が熱くなると共に、
――やっと決まった。
という解放感と安堵感で満たされた。


満面の笑みを湛えた長嶋茂雄は親指を立てた右手を高々と上げた。そして、もう1度その手に力を込めて震わす仕草に、大きな喜びが表れていた。「交渉権獲得」の朱文字が書かれてあるくじを引き当てたのだ。

その頃秀喜の家では、昌雄とさえ子、そして親戚の皆が集まってテレビ画面を見つめていた。その様子をテレビ局が追いかけていた。

長嶋がくじを引き当てた瞬間、昌雄はオーッという声を上げると共に、
――やはり!
と心の中で思っていた。4日前、長嶋の笑っている姿と巨人軍のユニフォームを夢の中で見ていたのだった。

さえ子は、
――毎試合テレビ中継される巨人軍だわ。12球団の中でも最もプレッシャーのかかるたいへんな球団に決まったわ。
と思った。