「ムサシ陰謀論」が目立ち始めたのは2012年頃だった

選挙結果をウラで操作!? 安田浩一が暴く ”ムサシ陰謀論”

「選挙機材メーカー」の真実(第1回)
東京・銀座の繁華街から汐留に抜ける裏通りに、こぎれいなオフィスビルがあった。立ち止まって見上げる。凝視する。そして深呼吸。

ビルの周囲にはある種の妖気が漂い、中からはピリピリした警戒感が伝わってくる──と書きたいところだが、実は、何も感じなかった。オフィス街の喧騒が耳に響くばかりである。「日本の闇」と呼ばれているのに。

1階の受付で来意を告げると、あっさり中に通された。「闇」の扉が開いた。

「ムサシ」。そう、権力と結託し、民意を操作し、日本社会を陰で操っていると一部で指摘される、あのムサシの本社ビルである。私は”ムサシ陰謀論”の本拠地に足を踏み入れたのであった。
 

選挙機材トップメーカーの怪しいウワサ

資本金12億円、年商380億円(今年度見込み)、社員数約560人(関連会社含む)。企業規模からいえばけっして大企業の部類には属さないが、それでも同社が注目を集め続けているのは、投票用紙の交付機、読み取り分類機など選挙用機材のトップメーカーであるが故の「暗躍」をウワサされているからである。

ムサシが自民党と結託して不正な手段で選挙結果を「動かしている」──。

こうした”ムサシ陰謀論”が選挙のたびにネット上で大量に流布される。

ムサシにまつわるウワサが目立つようになったのは、確認される限り、2012年からだ。
 
この年、民主党・野田佳彦内閣のもとでおこなわれた衆院選で、野党第一党の自民党が単独過半数を得て大勝。3年4カ月ぶりに自民党が公明党と共に政権を奪還した。
「自民党1強体制のもと、弱小野党が林立するといった現在の政治体制がここから始まった」と、当時選挙取材に奔走していた全国紙記者は振り返る。

政権を奪還したのは今から7年前(photo by gettyimages)


このような状況にあって、主に反自民党勢力の一部から漏れ出たのが、不正選挙を疑う声だった。民主党政権のあまりの短命と、強すぎる自民党の”選挙力”には、なにか不自然な”大仕掛け”が存在するのではと考えられたのだ。そうでもしなければ、自民党一強の理由を紐解くことができなかったのだろう。
 
そこで「反自民」のネットユーザーが疑惑の目を向けたのが、ムサシだった。多くの自治体に投票用紙の交付機、読み取り分類機、さらには投票箱なども納入する同社は、確かに特定の勢力と手を汲めば、やりたい放題できるのではと考えられても当然だ。
 
前述した衆院選後すぐに、ネット上ではムサシの不正を疑う書き込みが増えていく。ムサシの選挙機器には、自民党を有利に導く不正のタネが仕組まれているという指摘だ。
 
では、どのような不正があったというのか。