悠久の地で「ニワトリ神話」のルーツに迫ったら足跡化石が揃い踏み!

「恐竜大陸をゆく」陝西で足跡探し!
安田 峰俊 プロフィール

そこで地質調査院は9月、北京から中国地質大学副教授で中国恐竜学の若きホープ・邢立達(Xing Lida)たちの研究チームを招聘。詳しい分析がおこなわれた結果、これらは1億年ほど前の、比較的体格が小さな獣脚類の足跡であると推定された。

陝西省北部、靖边県で見つかった足跡の化石 (「化石網」より)
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2019年9月20日付「新華社」報道上で邢立達が述べたところによると、往年に砂丘や砂漠湖があった地形から足跡化石が見つかることは比較的珍しく、当時の気候や地理・地質を知るうえで非常に意義のある発見であったようだ。

中国古代神話は陝西省の足跡化石がモチーフ?

古来、黄河流域を発祥とする中華文明では鳥類を太陽の象徴として崇める文化が存在し、特にニワトリは「天鶏」「金鶏」などの名で神格化されてきた。

 

6世紀の梁王朝時代に成立したとされる、自然や動植物の逸話集『述異記』などが紹介するところでは、こうした古代神話が伝えられている。

中国東南にある桃都山には枝と枝との間が三千里も隔たった桃都という大木が生えており、その樹上には天鶏という鶏がいて、朝に樹上に太陽の光が当たると鳴いて時を告げた。これに応じて下界の鶏がいっせいに鳴く──。

このような漢民族の神話は、古代王朝が本拠地を置いた陝西地域で成立したものも多い。

清代中期の天鶏尊 Photo by Metropolitan Museum of Art / Creative Commons
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近年の陝西省の化石発見を伝える複数の中国側報道は、陝西省のあちこちで見つかる恐竜の足跡化石が、前近代にはこうした巨大なニワトリの神話のモチーフになっていたのではないかという仮説をしばしば紹介している。

事実、前回記事で紹介したように、チベットでは岩に残された竜脚類の足跡化石が高僧の足跡だと考えられて信仰対象になった例があり、また中国道教の四大名山のひとつである安徽省の斉雲山で見つかった恐竜の足跡化石は、地元の人々の間で道士が手をついた跡だと考えられていたという。

化石の知識がない人たちが恐竜の足跡を見ると、なにか超常的な存在がこの世に残した痕跡であるかのように勘違いしてしまうわけなのだ。

そう考えてみると、人類が生きている時代にはすでに存在しない、数十センチもの大きさになる巨大な「ニワトリの足跡」が刻まれた岩が、中華文明揺籃の地で「天鶏」の神話を作り出していったとする仮説もそれほど荒唐無稽ではない。

陝西省の恐竜化石事情には、歴史ある地域ならではの楽しいエピソードが隠れているのである。

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