悠久の地で「ニワトリ神話」のルーツに迫ったら足跡化石が揃い踏み!

「恐竜大陸をゆく」陝西で足跡探し!
安田 峰俊 プロフィール

余談だが、楊の足跡発掘の相棒であったピエール司祭は、カトリックのイエズス会士にもかかわらず進化論を受け入れて古生物学に没頭した人物。彼は中国に長く滞在し、北京原人の化石発見に関係するなど中国の古生物学の進歩に多大な貢献を果たしたが、バチカンやイエズス会からはその進歩的な思想を危険視されていたという異色の司祭であった。

さておき、こうして楊とピエールによって発見された足跡化石はやがてドイツの研究者によって研究され、「楊の足跡」(Sinoichnites youngi)として学界に報告されたのであった。どうやら白亜紀のイグアノドンの仲間の足跡だったようである。

足跡化石が家畜のエサ皿に……

こうした陝西省の足跡化石が再び脚光を浴びるのは、21世紀を迎えてからのことだ。2011年には榆林市子洲県電市鎮王荘村で、採石をおこなっていた村民が「ニワトリの爪痕」に似た巨大な3本指の足跡が多数刻まれた岩盤を発見している。

ニワトリの、爪……? Photo by Getty Images
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もっとも、実はもともと同様の石は村の周辺でたくさん出土していたのだが、村人たちはこれが何なのか気に留めることなく、村内で家を建てたり道を通したりするなかで少なからぬ岩盤が失われてきていた。

さらにこの足跡の凹みが便利だからと、薬を粉にする石皿や石臼などに加工する、家畜のエサ用の皿に使うなど、これまで村ではかなりフリーダムに恐竜の足跡化石が利用されてきた模様であった。

 

しかし、やがて子洲県の黄土文化研究会の王軍という人物が、これらは太古の爬虫類の足跡化石ではないかと当たりを付ける。化石はやがて専門家によって調査され、1億8000万年~1億7000万年前のジュラ紀中期のものであると推測された。

引き続きおこなわれた調査では数十個の足跡が見つかったという。知らない間に家の壁や石皿にされてしまった化石に心が痛むが、この時期の前後から浙江省での足跡化石の発見は加速していく。

石炭の里で化石発見ラッシュが

結果、かつて楊鐘健が最初の足跡化石を発見した神木市も新たな発見ラッシュに沸きはじめた。もともとこの一帯は石炭が多く出る土地で、地質的な調査がなされることが多い。2017年には陕西省地質調査院の調査団が、神木市中雞鎮の白亜紀前期の地層で、恐竜の足跡3点、小型の四足歩行動物の足跡2点が残った岩を発見している。

ここで見つかった恐竜の足跡は、ひとつは竜脚類のもの。もうひとつは小型獣脚類のドロマエオサウルスの仲間のものとみられた。ほかの小型動物の化石は哺乳類のものであり、アジアでは最初に発見されたパターンの足跡だった。当時、これらの生き物は砂丘から小さな沼に向けて歩いたとみられている。

ドロマエオサウルス Photo by Getty Images
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さらに2019年6月には同じく陕西省地質調査院の調査団が、靖边県にある景勝地・龍洲丹霞での測量中に足跡化石を発見する。