5匹様の暮らしぶり
/新潟・長岡

いつもとは違うことをしてみたら、また、グググンっと新たな道が見えてきた。

NHKの大河ドラマ「天地人」以来、ご縁が続いている新潟県長岡市の花火大会に今年も行かせていただいた。毎年、この人と行きたいなと思う人と一緒に行っていて、今年は、仲良しの女優さんをお誘いしてみた。

大迫力の花火に、それは、それは大興奮。最高の笑顔を見せてくれた。翌日は帰りの新幹線まで時間があったので、少し観光でもしましょうか、ということになり、旧山古志村(現長岡市)まで行ってみることにした。

撮影/萩庭桂太

実は私、山古志は少し遠いという理由から一度も行ったことがなかった。せっかくのチャンスだし、早起きしてでも行きましょうと、頑張った。

街の中心地からロングドライブを覚悟して車に乗り込んだにもかかわらず、あっという間に着いた山古志の里。なんと美しい原風景。「悠久」とは、こういうことを言うんだ、と感覚で知った。過去にタイムスリップしてしまったかのよう。

山古志は錦鯉が有名で、この錦鯉、驚くべきことに棚田がお住まい。

棚田ゆえに段々になっていて、大雨が降ると、上段の田んぼにお住まいの錦鯉ちゃんが、下段のお宅に流れていってしまうこともあるとか。自然が起こしたこのだから、ということで特に取り戻しに行ったりもしないらしい。なんとおおらか。

昔は田植えをした後に稚魚を放ち、稲刈りのころ、大きくなった鯉を食べていたこともあったらしい。今は鯉専用の田んぼ風の池みたいになっている。

大きく育ってほしい最上級の錦鯉には、特別な田んぼ池が用意されている。25メートルプールぐらいある田んぼ池に、たったの5匹。悠々自適にのびのびと育っていただくそうだ。

鯉たちは、空から襲ってくる鳥から身を守るため、ほとんどが泥で濁った池の底にいる。だから、たまにしか見えない。でも、その濁った田んぼ池の底での、選び抜かれた5匹様の暮らしぶりに思いをはせると止まらなくなり、危うく何時間もいてしまいそうになる。

もしも今後、長岡で撮影があったら、休みの日にはレンタカーを借り、山古志に行き、泥の底にいる見えない錦鯉を眺めるんだ、と心に決めた。

まばたきのおもひで(講談社)
女優・常盤貴子が日常のなかで感じたことを独自の目線で綴った初エッセイ集。2014年4月にはじまった、約5年にわたる新聞(共同通信社系)の連載をまとめ、書き下ろしも特別収録。なにげない日常が、とびきり楽しくなるヒントが満載。アーティストの鈴木康広さんが描いたイラストにも注目!

常盤貴子(ときわ・たかこ)
1972年4月30日生まれ。神奈川県出身。1991年に女優デビュー。
ドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS)、『Beautiful Life~ふたりでいた日々~』(TBS)、『カバチタレ!』(フジテレビ)、『グッドワイフ』(TBS)、『京都人の密かな愉しみ』(NHK BSプレミアム)など、数々のヒット作で主演を務めるほか、映画『赤い月』、『20世紀少年』、『野のなななのか』、『だれかの木琴』など多くの作品に出演。ほか、CMや舞台、ナレーションなど活動は多岐にわたる。2020年1月5日スタートの連続ドラマ『贋作 男はつらいよ』(NHK・BSプレミアム/日曜22時~)に出演。