大人気『おっさんずラブ』シリーズが斬新かつ画期的だった理由

歴史とのつながり、新しいメッセージ…
佐伯 順子 プロフィール

ドラマの描く黒澤の姿はまさに、こうした日本社会における中年男性の生き様やイメージの変化を端的に表現している。『寺内貫太郎一家』のように、昭和のホームドラマの男は、おっちょこちょいな面もありながら押し出しが強く、一家の「大黒柱」としての役割が期待されていた。

ところが、『おっさんずラブ』の黒澤は、年下の同僚に恋する”乙女なおっさん“であり、社内では信頼される部長でありながらも、恋する春田の隠し撮り写真を秘かにためこんでいるなど、恋においては純情な側面をみせる。

シーズン2でも、機長という重職にありながら、春田への片思いに悩み、恋のライバルたる整備士の四宮や副操縦士の成瀬に嫉妬したり闘志を燃やしたりする直情的様子ものぞかせる。

昭和の「おっさん」たちは、タバコをくゆらせながら“頼りがいのある男”を演じていたのだが、女子高校生のように物陰から好きな人を見つめる純情な黒澤は、「ヒロイン」と呼ばれて視聴者に愛されている。

「草食男子」という表現で従来の日本男子とは違う恋にもモノにもがつがつしない若者の登場が指摘されて久しいが、黒澤は“乙女なおっさん”という、平成末から令和にかけての“新しいおっさん像”を構築したのである。

 

これまでの男性同性愛表象との連続性

しかし、『おっさんずラブ』には、男性同性愛を描く従来の映画や文学、漫画と共通する“古典的”な要素も実は含まれている。

シーズン1では、主人公と恋の相手の牧はルームシェアで生活を共にし、シーズン2では、主人公に恋する3人の男性のうち、2人が主人公と同じ男子寮に住んでいる。

男子寮!寝食を共にする男たちの間に恋が芽生えるという筋書きは、少年愛漫画の古典『トーマの心臓』『風と木の詩』、ケンブリッジの男子寮生たちの思慕を描くE・Mフォースターの『モーリス』、三島由紀夫『仮面の告白』と類似の状況であり、小説のみならず現実上も、日本の旧制高校の男子寮のように、男性のホモソーシャルな空間は男性同性愛の温床になりやすかったのである。逆に、そうした現実を背景に小説が描かれているといえる。