とはいえ、これまでの男性同性愛を描くコンテンツとの共通点も残されている。
第1シリーズでは、主人公と結ばれる同僚の牧が20代と比較的若く、エリート社員のイケメンという、昭和の少女漫画の“王子様”的特徴を備えている。
第2シリーズでも、勉強好きな副操縦士である成瀬が、やはり、昭和の少女漫画から抜け出てきたような美少年的ビジュアルであり、イケメンを鑑賞したい、という女性視聴者の欲求を満たす工夫はぬかりない。
主人公が第1シリーズでプロポーズする相手はイケメンの牧であり、長く春田に片思いをしていた「おっさん」の黒澤は、春田に尽くしたにもかかわらず、最終的には身をひく。「王子様」と結ばれる主人公という王道的ハッピーエンドがそこにある。
「おっさん」のポジティブ・イメージ
にもかかわらず、ドラマのタイトルは「おっさん」である。実はここにこそ、このドラマの斬新さがある。
シーズン1でも2でも、「おっさん」の黒澤は50代というまさに「おっさん」の年齢設定であり、役者の実年齢もそれに近い。しかも、日本社会において「おっさん」はとかく、マイナスイメージでみられがちであった。
日本社会における「おっさん」の歴史をさかのぼってみると、昭和期の「おっさん」たちはタバコとポマードの臭いに満ちた権威主義的存在であった。
昭和期の中高年男性の喫煙率は8割をこえていた時期もあり、タバコのCMが描いていた男性像をみれば明らかなように、かっこいい男はタバコを吸ってきめていたものであった。
歴代の首相や著名な男性政治家、経営者等をみても、だみ声で威圧的、そうでなければ部下を従えて組織を統率することが難しい時代でもあった。
それに引き替え、健康志向の現代では、タバコは有害視され、禁煙エリアの拡大に伴い、喫煙者は肩身の狭い思いをするようになっている。男性の喫煙率も見事に右肩下がりであり、アニメ映画の喫煙シーンも問題視される。
昭和期の日本の“男らしさ”はもはや通用しなくなってしまったのである。