マクドナルドが苦しんだ「経営の逆回転」とはなんだったのか

原田泳幸氏が残したもの
福田 健 プロフィール

もはや現場の工夫には頼れない。結果、原田が頼ったのはクーポン券のばらまきや期間限定の値引きだった。バーガー購入客にハンバーガーの無料引換券を配布する「ハンバーガーデー」や、単価約300円のビッグマックを期間限定で200円にする値引きキャンペーンが増えた。2007~09年の3年間ではそれぞれ1回実施しただけだが、2010年~12年にはそれぞれ5回も行われている。

この頃のマクドナルドの人事の変化も、現場のサービス力が低下していたことがうかがえる。2012年10月、米本社出身でアジアやアフリカの統括会社で営業・トレーニング担当の副社長を務めていたデビッド・マーフィーが日本マクドナルドのCOOに就任する。

マーフィーは前述したQSCのようなオペレーションのプロフェッショナルで、かつて日本マクドナルドHDの代表取締役を務めていたこともある。マクドナルドでは、サービス力が低下すると、オペレーションの専門家を幹部に据える傾向があるのだ。

だが、テコ入れの効果は薄く、2012年の決算は9期ぶりに減収減益に沈んだ。

 

不発に終わった「掟破」のマーケティング

この時点で原田の退任が決まっていたかは定かではない。ただ、かつて社長だった藤田やその後に社長に就任した八木康行がそうであるように、大株主である米本社が業績不振を容赦なく追及してくる。原田の先行きが長くないと噂され始めるのもこの頃からだ。

なんとかして苦境を打ち破ろうと、原田が乾坤一擲で放ったのが“掟破(おきてやぶり)”のマーケティングだった。

2013年5月、原田は社員や取引先を都内の体育館に集めてイベントを行った。

掟破――。3×6メートルの超大判の和紙に巨大な筆を使って書きなぐった。同年6月から開始する大型のキャンペーンに向けた決意の表われだった。原田はこの2文字を手ぬぐいにプリントし、「われわれの使命は世の期待を超える新しい世界の実現だ」という言葉を添え、全社員、主要取引先に配布したのだった。

5月からハンバーガーなど「100円マック」の一部商品を値上げする一方、ポテトやチキンナゲットを軒並み値下げし、全体として100~200円前後の低価格帯商品を充実させた。6月からは期間限定「クォーターパウンダー」や1日限定の1000円ハンバーガーなどを次々と投入。5月に低価格商品で集客し、6月以降は高単価な期間限定商品による収益の押し上げを図った。ここでも「客数×客単価」の公式を忠実になぞったのである。