なぜ中世の日本人は「犯罪者の家を焼き払った」のか

日本の刑罰観を解き明かす名著が復刊
清水 克行 プロフィール

公家、武士、庶民の「異なる秩序」

過酷といえば、網野氏・石井氏がともに「未進と身代」「身曳きと“いましめ”」の章で明らかにした債務奴隷・犯罪奴隷の問題も、この社会のある暗い断面を如実に示している。

 

人身売買や人身の拉致拘束など、現代の人権意識に照らせば忌まわしい実態であるが、そこに隠された当時の人びとのロジックを二人は解き明かす。なぜ年貢は納めなければならないのか。年貢を滞納した百姓が債務奴隷に転落する実態から、網野氏は、当時の人びとにとって貢納が一種の「契約」関係とみなされていたと論じる。

また、石井氏は犯罪者や債務者の奴隷化を武士たち在地領主に固有の志向であるとして、それが彼らの勢力拡大の重要な梃となったことを論じる。犯罪によって生じた「穢れ」を「祓う」ことに執着した公家や寺社などの荘園領主たちとは対照的に、武士たち在地領主は犯罪者の身柄を積極的に自身の組織に組み込むことで権益の拡大を果たしたのである。

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寺社や公家と、武士と、庶民で、まったく異なる刑罰観が併存している驚くべき実態。これも政治権力が分散し、秩序が多元的に存在した中世社会ならではの現象といえるだろう。