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なぜ中世の日本人は「犯罪者の家を焼き払った」のか

日本の刑罰観を解き明かす名著が復刊

「ミミヲキリ、ハナヲソグ」

日本中世とは、どういう時代ですか?

一般の方からそう尋ねられたら、私は迷わず、この『中世の罪と罰』を読むことを薦めるだろう。そして、私と同じように答える同世代の研究者は、決して少なくないと思う。

日本中世史の魅力を一般読書界に広めることに大きな貢献を果たした網野善彦氏を筆頭に、石井進氏、笠松宏至氏、勝俣鎭夫氏という、中世史研究の黄金時代を築いたレジェンド4人が計10本の「中世の罪と罰」をめぐる文章を寄せた本書は、間違いなく戦後の日本史学が生んだ名著の一つである。

本書は1983年に刊行されて、研究者のみならず一般読者にも大きな衝撃をあたえた。現在、40代後半以上で、この時代に多少なりとも興味をもつ者なら、きっと覚えがあるだろう。

しかし、刊行から長い年月が経過し、いまの若い人たちのなかには、本書に触れたことのない人も増えてきたようだ。当今は「歴史ブーム」ということで、歴史好きの人々のなかには戦国や幕末だけではなく、南北朝や室町時代にも、その関心が向かってきているようである。

 

もちろんそれはそれで歓迎すべきことだが、そこではマニアックな武将や合戦・城郭など政治史上の出来事ばかりに目が向いていて、一般庶民の生活や価値観、社会のあり方にまでは理解は深まってはいないようだ。そんなおり、講談社学術文庫から本書が再刊されることになったのは、絶好のタイミングといえるだろう。

「家を焼く」「「ミミヲキリ、ハナヲソグ」」「盗み」「夜討ち」「博奕」など、刺激的な章タイトルが並ぶ目次を見るだけでも、本書の歴史書としての魅力は十分に伝わるにちがいない。以下、このうちのいくつかの論旨を簡単に紹介しよう。

現代人とはまったく異なる犯罪観

たとえば中世の荘園では、犯罪をおかした者の家屋を、公家や寺社などの荘園領主が焼き払うという措置をしばしば行っていた。

この措置のウラにある当時の人々の意識を解き明かしたのが、勝俣氏による「家を焼く」の章である。当時の人々は「犯罪」を「穢れ」と考える思考をもっており、そのために荘園領主の行う「刑罰」は犯罪者に制裁を加えるというよりも、それによって生じた「穢れ」を除去する「祓い」「清め」としての意味をもったという。そのための措置が、一見無意味にすら思える犯罪者家屋の焼却処分だったのである。