ドラッグ、マルチ商法を経験した異形の作家が〈地面師〉を描くまで

『地面師たち』著者・新庄耕インタビュー
新庄 耕 プロフィール

そのとき、これなら小説になる、と思ったんです。友人の不動産営業の話に、自分が抱えていた屈折や仕事に対する思いを織り込むことで、新しい小説ができるんじゃないかと。執筆当時「ブラック企業」という言葉はあまり一般的ではなかったのですが、彼の働き方とそれによる変化に、私を含め、今を生きる若者のリアリティを感じました。

もちろん小説を書くのは初めてだったので苦戦はしましたが、執筆の終盤は脳内物質が出てハイになり、書き終えると虚脱状態でした。間違いなくそのとき自分は「本気」になれていたと思います。

『狭小邸宅』はありがたいことに、本が好きな方だけではなく、不動産業界の方からも話題にしていただきました。新入社員に必ず配る不動産会社があるとも聞いています。ブラック企業の内実を詳細に描いているものなので、読んで新入社員がやめたくならないか心配ですが(笑)。

ちなみに、話をしてくれた営業マンの友人は、そのあと不動産会社を辞め、開発途上国での国際協力の仕事を始めました。現在はJICAの東南アジアにある支部でコンサルタントとして活躍しています。パワフルに生きる、変わらず尊敬できる友人です。

作品が評価されるのも無論とても嬉しく執筆のモチベーションになっていますが、『狭小邸宅』以降作家として今まで活動を続けてこられたのは、執筆という仕事に本気で向き合うことができた経験が根っこにあるからだと思います。

 

地面師は小説家に似ている

――どうして今回、地面師を小説にしようと思ったのですか? もしかして過去に実際に地面師をされたことも…?

いえ、地面師をやったことはないです。見た目は詐欺師っぽいとよく言われますが(笑)。

地面師たちは、偽造書類や印鑑、なりすまし役など、「仕事」を手がけるにあたって用意周到に準備をします。書類一つ偽造するだけでも大変ですし、なりすまし役を手配し、なりすます土地所有者の個人情報を暗記させ、髪型や服装なども相応しいものに変えさせる必要もある。とてつもない労力がかかります。

そして、嘘の取引と思わせない信憑性のあるディテールも不可欠です。そうやって細部までこだわり抜くことで、不動産のプロフェッショナルさえ騙してしまう。