ドラッグ、マルチ商法を経験した異形の作家が〈地面師〉を描くまで

『地面師たち』著者・新庄耕インタビュー
新庄 耕 プロフィール

リクルートを辞めてからは、友人が経営していたITベンチャーを手伝ったり、集配センターで日雇い労働をしてみたりと、いろいろな仕事を経験してみました。

その時期にネットワークビジネス、いわゆるマルチ商法の勧誘も多く受けました。元大手メーカーのエンジニアで、マルチで月300万円稼いでいるという人を紹介されたんです。話がすごく上手いし、頭の良い人だとすぐにわかったんですが、その人に「会社のために働くなんて馬鹿らしいよ、こっちの方がずっと楽」と言われて。

その時は、そこに新しい自由があるように感じて、短い期間ですが、実際にマルチの会員になって活動してみました。この時の体験は、『ニューカルマ』という小説にも書いています。

でも結局、自分はマルチの世界にもハマることはできなかった。そこでも本気になれなかったんです。これじゃねえなって。

 

「本気」で書いた『狭小邸宅』

そうやって自分を見失っているうちに、どんどん体調をくずしていきました。一時は身の危険を感じましたが、チベット音楽を聞きながらの瞑想と断食により、どうにか復調しました。健康を取り戻して思ったんです。どうせ死ぬなら、自分がやりたいこと、自分が本気になれるものをやって死のうって。

それってなんだろうって考えると、やっぱり物を書くことなんじゃないかと思いました。沢木耕太郎さんや吉村昭さんの作品をはじめ、文学の世界に強く心動かされてきたし、ひとりでコツコツなにかをするという行為が自分の性に合っていると思ったからです。

そして何を書こうか考え始めたときに、不動産会社で営業マンをしていた友人からたまたま話を聞いたんです。彼の職場は、ものすごく過酷な環境で、到底許容できるものではない。でも、そこにいるからこそ味わえる達成感や成長があるようで、実際に、久々にあった友人はほとんど別の人間になっていました。