21世紀の今、小説は「亡霊」に取り憑かれている

失われた小説をもとめて【5】
小説デビュー後、筆が動かなくなり、車で日本最北端を目指す旅に出た藤田祥平さん。大阪を出発し、今回は北海道編。札幌の街をさまよい、ある本と出会う。それをきっかけに物語を書き、自分の意識の変化に気づいていき……。

【第一回:新人小説家は期待に押しつぶされ、大阪から日本最北端へと逃げ出した】

「なぜおれはこんなところにいる?」

登別温泉のそばに倶多楽湖という、ほとんど真円に近い形の湖があると知った。温泉街の地獄谷を見たあとに、車を走らせた。まだ北海道に慣れていなかったからだが、十分で着くと思っていたら、三十分かかった。湖につづく道路では誰ともすれ違わなかった。

おそろしく透明な湖だった。生き物の気配が妙に薄かった。道中の山道はたくさんのけものや虫に満ちていたが、水辺にいたると気配が消えるのだ。比べるものがなにもないので、大きさがまったくわからなかった。隕石か核弾頭が落ちたあとだ、と言われても信じただろう。

 
カッパはいるらしい

午過ぎに札幌に着いた。もう一キロだって走りたくないと思った。運転ばかりしていたのだ。少しは歩こうと思った。チェックインまで間があったが、薄野の東横イン(万歳)の駐車場に停めさせてもらって、札幌の街を歩いた。

おそらくだが、二時間ほど歩いた。街は街であるという結論だった。格子の目の、真新しい、清潔な街だった。

気がつくと私は東横インの一室で、ベッドに倒れ伏していた。

「なぜだ?」と私は煩悶した。「なぜおれはこんなところにいる?」