全生物の「共通祖先」は「地球最初の生物」ではなかったかもしれない

38億年前に誕生した生命の謎
更科 功 プロフィール

名を残さなかった生物

現在の地球のすべての生物は、ただ一つの祖先種から進化してきたと考えられている。この、すべての生物の最終共通祖先のことをLUCA(Last Universal Common Ancestorの略。他にもいくつかの呼び方がある)と言う。LUCAは地球のすべての現生種の最終共通祖先だから、クラウングループの共通祖先ということになる。

先日テレビの科学番組を観ていたら、地球におけるすべての生物の最終共通祖先であるLUCAを、地球における最初の生物と説明していた。しかし、LUCAは最初の生物というわけではない。

現在の地球の生物は、3つのグループに分けられる。細菌とアーキアと真核生物だ。アーキアは、細胞が小さくて核がない。その点では細菌と似ているが、系統的にはまったく異なる生物である。真核生物には私たちヒトも含まれる。真核生物の細胞(真核細胞)のDNAは核膜に包まれており、いわゆる核という構造を作っている。

LUCAは細菌とアーキアと真核生物の最終共通祖先のことで、クラウングループの中では最初の生物である(図4)。しかし、ステムグループまで含めれば、最初の生物ではない。おそらくLUCAが生きていたのは、最初の生物が生まれてから何億年か後の時代であろう。当然、LUCAがいた時代にも、LUCAの他にたくさんの細菌がいたに違いない。しかし、LUCA以外の細菌は、子孫を残すことなく絶滅してしまった。現在まで子孫を残しているのは、LUCAだけなのだ。

【図】LUKAの時代
  図4 LUCAの時代には他にもたくさんの細菌がいたに違いないが、LUCA以外の細菌は子孫を残すことなく絶滅してしまった

地球にはおよそ38億年前から、生命の痕跡が残っている。しかし、この痕跡が、現在地球に生きているすべての生物のクラウングループなのか、それともステムグループなのかを知るすべは、今のところない。

ステムグループの生物は、名を残さずに消えてしまったのかもしれない。万一痕跡が残っていたとしても、自分がステムグループだと名乗ることはないだろう。でも名を残さなかったとしても、ステムグループはLUCAよりも古い時代から、地球で生きていたのである。

また、別のテレビ番組では、「生命は地球で1度だけ生まれた」と説明していた。これについては、正しいか正しくないかわからない。わからないけれど、「生命は地球で1度だけ生まれた」と断言してはいけない。それだけは確実だ。

 

生命は地球で何回も生まれたかもしれない。地球には、起源が異なる生物群が、いくつも共存していたかもしれない。しかし、何百万年とか何千万年とかが経つうちには、いろいろな生物が絶滅するだろう。私たちとは起源が異なる生物も、そういう絶滅の犠牲にならなかった保証はない。いや、むしろ、何十億年もの長きにわたって、起源の異なる複数の生物群が共存し続けている方が不自然だろう。

長い時間が経つうちには、起源の異なる系統が一つずつ消えていき、ついには唯一の起源に由来する系統だけが生き残る。その方が自然なはずだ。

たしかに今のところ、私たちと起源の異なる生物が地球にいた証拠はない。でも、だからと言って、いなかったと断言することはできない。

LUCAよりも古い時代から生きていたすべての現生生物のステムグループも、私たちと起源の異なる生物も、名を残さなかった生物かもしれない。でも、現在の私たちには知りえない生物がいた可能性は、頭の片隅に留めておいてもよいことだろう。

【イラスト】進化過程の動物種
  私たちと起源の異なる生物が地球にいた証拠はないが、だからと言って、いなかったと断言することはできない illustration by gettyimages