全生物の「共通祖先」は「地球最初の生物」ではなかったかもしれない

38億年前に誕生した生命の謎

己(おのれ)を伝えず

「虎は死して皮を留(とど)め、人は死して名を残す」という言葉がある。これは、虎が死んだ後に美しい毛皮を残すように、人は死んだ後に名前を残すような生き方をすべきだ、ということらしい。

でも、私はあまりこの言葉が好きではない。だって、虎を皮にするなんて可哀そうではないか。

それに、「ヒトは死して名を残す」というけれど、名を残すためには後世の人に名前を憶えてもらわなければならない。だから、みんながみんな名を残したら、後世の人は大変だ。ものすごくたくさんの人の名前を、覚えなければならない。後世の人にそんな迷惑をかけたくない気もする。

 

それよりは「道を伝えて己(おのれ)を伝えず」の方がよいかもしれない。これは立教大学の前身の創立者、チャニング・ムーア・ウイリアムズ(1829〜1910)の墓碑に記された言葉である。ウィリアムズは老齢になって日本を去るときに、自分に関する記録や資料を焼却したというぐらいだから、「道を伝えて己を伝えず」という生き方を徹底して生きていたようだ。

生物の進化においても、記録がなくなることはよくある。たとえば、化石として残らなかった生物は、たくさんいる。記録がなくなった部分については、私たちは進化の歴史を知ることはできない。

【写真】化石に残らなかった生物もいる
  化石として残らなかった生物もたくさんいる photo by gettyimages

しかし、それらの生物は、名は残さずとも確かに地球で生きていた。そして地球の生物や環境に、何らかの影響を与えてきた。そのような影響の総合的な結果として、現在の生物がいる。しかし私たちは、そういう名も残さなかった生物のことを、つい忘れてしまう。

でも今日は、そんな生物のことを、少しだけ思い出してみよう。

クラウングループとステムグループ

まず、言葉を4つ確認しておこう。「最終共通祖先」と「単系統群」と「クラウングループ」と「ステムグループ」だ。

ゾウの進化的関係は、簡略化すると図1のように表せる。最初はマストドンもアフリカゾウもマンモスもアジアゾウも同じ種だった。つまり、共通祖先Cがいたわけだ。それからマストドンに至る系統が分かれ、次にアフリカゾウに至る系統が分かれ、それからマンモスとアジアゾウに至る系統が分かれた。マンモスとアジアゾウの共通祖先はAになる。

【図】ゾウの進化的関係
   図1 ゾウの進化的関係 elephant photos and illustrations by gettyimages

でも考えてみれば、BもCも、マンモスとアジアゾウの共通祖先である。というか「Aの祖先」はすべてマンモスとアジアゾウの共通祖先になる。だからAは、たくさんいる共通祖先の中の最後の1種と言える。そこで、Aだけを指すときは「最終」をつけて、マンモスとアジアゾウの「最終共通祖先」と言う。