「テロリストが人質を思いやる」奇跡が有名テロ事件で起きていた

「犯人VS人質」でサッカーの試合も
此花 わか プロフィール

武力突入の開始後、テロリストたちは人質のいる部屋に手榴弾を投げ込むことも、自動小銃を乱射することもなかった。

『ベル・カント とらわれのアリア』
 

「武力突入が人質の間に多くの犠牲者を出すことなく実行されたのは、ペルー政府と軍の戦術が優れていたためではなく、MRTAメンバーが人間性を有していたために生じた奇跡の結果であった。彼らは『武力突入があればいっしょに死んでもらう』と述べていたのにもかかわらず、人質を道連れにしなかった。それは、彼らが人間の心を失っていなかったからであった」と小倉氏は著書でこの状況を説明している ※2。しかし、「殺さないで」と叫びながら投降した女性テロリストは、無情にもペルー政府に殺されてしまった。

ペルー日本大使公邸人質事件が投げかけるもの

国際社会はフジモリ政権の武力突入を支持したが、小倉氏を含む人質をはじめこの武力突入の必要性を疑問視する人は多い。フジモリ政権は低迷する支持率を上げるために、人質の犠牲を顧みずに武力突入による解決を図ったのではないか。なぜ、降伏した若い犯人を殺す必要があったのか。平和的解決は本当に望めなかったのか――。

一般的なテロリズムを描いた映画は、スリル満点のサスペンスフルな救出劇を描くものが多いが、本作はあえてテロリストと人質の“対話”を映し出した。もちろんテロリズムや暴力は正当化できない。だがしかし、テロリズムに身を投じてしまわざるを得ない社会的弱者たちを、“対話”なしに“暴力で抹殺”してもよいものか。格差が広がり、分断される現代社会に生きる我々に本作は問いかけている。

【参考】
※1 『ベル・カント とらわれのアリア』映画プレス資料
※2 平凡社『封殺された対話 ペルー日本大使公邸占拠事件再考』小倉英敬著
※3 共同通信社『ペルー日本大使公邸人質事件』共同通信社ペルー特別取材班編

ベル・カント とらわれのアリア』は全国公開中
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