『ベル・カント とらわれのアリア』より

「テロリストが人質を思いやる」奇跡が有名テロ事件で起きていた

「犯人VS人質」でサッカーの試合も

ジュリアン・ムーア、クリストファー・ランバートやセバスチャン・コッホなど世界的な演技派俳優に加え、日本映画界を代表する渡辺謙、実力派の加瀬亮らが競演する現在公開中の映画『ベル・カント とらわれのアリア』は、1996年にペルーで起きた「日本大使公邸人質事件」にヒントを得て、テロリストと人質の人間的な交流を描いた物語だ。

 

同人質事件では、テロリストが人質のことを思いやる、という矛盾に満ちた態度が見られ、この心理的現象はペルーの地名にちなんで「リマ症候群」と名付けられた。本作『ベル・カント』でもその点にフォーカスされ描かれている。

なぜテロリストたちは人質に対して攻撃的にならなかったのか。実際の事件について振り返りながら、テロリストと人質のあいだに生まれた不思議な感情に迫ってみたい。

在ペルー日本大使公邸人質事件とは

日本大使公邸人質事件は、1996年12月16日(現地時間)、南米ペルーのゲリラ組織「トゥパク・アマル革命運動(MRTA)」のメンバー14人が、首都リマの日本大使公邸のパーティーを襲撃し、邸内にいた者のうち621人を人質にして立てこもった事件だ※1。なんと、この人質事件は翌年4月22日(現地時間)まで127日もの間続いたが、MRTAは事件発生後から約3時間後には高齢者や女性を全員解放し※2、襲撃から約1ヶ月までには人質は72人(ペルー人48人、日本人24人、うち進出企業代表12人)までに絞り込まれていた※1

『ベル・カント とらわれのアリア』より

事実と異なり、映画の舞台は日本大使公邸ではなくペルー副大統領邸に設定されており、日本人の人質は通訳のゲン(加瀬亮)と実業家のホソカワ(渡辺謙)の2人だけが登場しているが、劇中で描かれるMRTAメンバーやペルー大統領の人物像、邸内での生活、テロリストと人質が築いた予期せぬ関係は史実に限りなく近い。