現代の日本の親は、子育てを頑張りすぎるくらい頑張っている

「揺さぶられっ子症候群」裁判から考える
広井 多鶴子, 柳原 三佳 プロフィール

柳原 そうですね。ですがなぜ、世間一般には「深刻な児童虐待が増えている」というイメージが強いのでしょうか?

広井 児童相談所に寄せられる虐待相談対応件数の増加が影響しています。この集計が始まった1990年は1101件でしたが、2018年には約16万と、大幅に増えました。30年近くにわたって、毎年この相談対応件数の数値が発表されるたびに、児童虐待が増加・深刻化していると言われ続けてきたのです。

しかし、これはあくまでも児童相談所が対応した件数であり、いわば児童相談所の業務報告です。虐待の「発生件数」ではありません。厚生労働省も、相談対応件数の増加は、虐待に関する社会の関心の増加によると言っています。

 

柳原 そもそもの話ですが、「隣の家で大きな声が聞こえた」とか、「激しい子どもの泣き声がする」といったことを、近所の人が警察や民生委員、ときには児童相談所に直接通報すると、児童相談所の相談対応件数としてカウントされるんですよね。

広井 はい。個々のケースによって深刻の度合いが大きく違うのに、通報の中身は問わず、「プラス1」と数えられます。通報の増加によって、相談対応件数には虐待と言えるかどうか微妙なケースや軽度の虐待が多く含まれるようになりました。

柳原 そうなのですね。それにしても、児童相談所への通報が増えていますね。

広井 2000年の児童虐待防止法の制定以来、虐待の範囲や概念が大幅に拡大したためです。とくに2004年の法改正で、子どもが親のDVを目撃する「面前DV」が「心理的虐待」と位置づけられ、警察が子どものいる家庭でのDVを児童相談所に積極的に通報するようになったことが大きな要因だと思います。

その結果、次のグラフにあるように、近年では心理的虐待が相談対応件数の半数以上を占めるようになり、2018年は約8万8000件となりました。一方、警察が心理的虐待として検挙した件数は、2010年までは0件。その後少しずつ増えますが、近年は30〜40件ほどです(2018年の検挙件数は35件)。

図4:厚生労働省「児童相談所での児童虐待相談対応件数」(各年)より作成

柳原 「心理的」ということは、直接の暴力ではなく、心に傷を負わせるということですね。

広井 そうです。面前DVが子どもの心を傷つけることは確かだと思います。ですが、面前DVを虐待として位置づけることに、私としては疑問があります。DVは親子関係ではなく、基本的に夫婦関係の問題です。児童虐待としてではなくて、あるいはそれ以前にDVとして対策・対応をはかるべきではないでしょうか。

目黒区の船戸結愛ちゃんの事件も、もしDVとして対策がなされていれば…、と思えてなりません。それに面前DVがDV問題として位置づけられ、それに対する行政組織が拡充・整備されれば、児童相談所の過剰な業務も大幅に減ります。そしてそれによって、児童相談所は深刻な虐待ケースにもっと力を注ぐことができるようになるはずです。

【後編に続く】