現代の日本の親は、子育てを頑張りすぎるくらい頑張っている

「揺さぶられっ子症候群」裁判から考える
広井 多鶴子, 柳原 三佳 プロフィール

広井 判決にまつわる記事を読ませていただきました。「疑わしきは罰せず」という刑事司法の原則を無視するかたちで、取り立てて根拠もないまま「祖母が虐待をした」と決めつける……。これは本当に怖いことですね。

広井 多鶴子:実践女子大学教授。専攻は親子関係制度史、教育行政。著書に『現代の親子問題―なぜ親と子が「問題」なのか』などがある。

柳原 今年(2019年)に入って、揺さぶられっ子症候群に絡んだ虐待を疑われ、逮捕・起訴された保護者の刑事裁判で、私が把握するかぎりですが、この高裁判決をふくめ、すでに5件の無罪判決が下されているんです。1年のうちに5件です。

広井 日本の刑事裁判においては、検察に起訴されたら99%以上、有罪判決が下されているのですから、これは、相当、異例の事態と言えますね。

〔PHOTO〕iStock
 

柳原 SBSを根拠に虐待を疑うことは、冤罪を生み出す危険をはらんでいます。もはや、それはあきらかです。実はここ数年、赤ちゃんの身体の表面に傷やアザはないのに、急性硬膜下血腫、脳浮腫、眼底出血の3兆候が見られると、全国の医療機関に配られているマニュアルに従って、機械的に「乳幼児揺さぶられ症候群」を疑われ、即座に警察や児童相談所に通報される事態が起きています。

通報を受けた警察は捜査を始めますし、児童相談所は親子分離を実行します。けがをした子どもの保護者が、「つかまり立ちをしていて後ろに転びました」とか、「お昼寝をしているときに容態が急変したんです」など、いくら説明しても信じてもらえません。しかし、脳内の3兆候以外、外傷もなにもなく、周囲の証言からも、その保護者が虐待をしてきた形跡など存在しないケースがほとんどなのです。

広井 児童虐待に対する社会の関心が高まってきたために、“疑い”の段階に過ぎないことであっても、“虐待”という事実にすり替えてしまう傾向があるのでしょうね。以前なら虐待とはみなされなかった軽度の行為に関する通報も急増しているようです。

ここで認識しておかなければならないのは、近年、メディアで報じられている児童虐待の「増加」「深刻化」という論調そのものについてです。そうした論調に客観的な根拠はありません。「印象論」が蔓延しています。