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現代の日本の親は、子育てを頑張りすぎるくらい頑張っている

「揺さぶられっ子症候群」裁判から考える

10月25日、大阪高裁で、生後2ヵ月の孫への虐待を疑われ、一審で有罪判決を受けていた69歳の祖母に対し、逆転無罪の判決が言い渡されました。

外出する娘に頼まれて孫の面倒を見ていた祖母は、帰宅した娘といっしょにお昼寝している孫の様子を見たところ、容態が急変していたのだと一貫して無実を訴えていましたが、傷害致死の罪で起訴され、一審の大阪地裁は懲役5年半の実刑判決を下しました。

しかし、今回の高裁の判決に対して検察も控訴を断念し、無罪が確定したのです。

この祖母を児童虐待の犯人に仕立てあげるにあたって、検察側が頼ったのは、ある小児科医の力でした。脳の専門家ではない小児科医が、このケースを「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」と診断したことで、「一緒にいた祖母が孫に強く揺さぶる暴行を加えたに違いない」とされたのです。しかし、この小児科医は脳内を撮影したCT画像を読み違えるなど、初歩的な「誤診」を犯していました。

いま、「虐待」の二文字がメディアに躍ると、親、ないし保護者が真っ先に疑われ、個々の家庭で何が起きたのか精査されることなく、社会が率先して断罪するという流れができているかに見えます。

東京・目黒区の「結愛ちゃん虐待死事件」など、残忍な事件がある一方で、外傷がない乳幼児の脳にダメージがあれば機械的に「乳幼児揺さぶられ症候群」だと診断され、その結果、冤罪が生み出される現実があります。どちらも「児童虐待」と、ひとくくりにされてしまいます。

メディアの流している第一報だけを信じてしまえば、日本には「親による児童虐待」が蔓延していることになります。はたしてそれは事実でしょうか? SBSの問題を追及し続けて『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』を刊行した柳原三佳さんと、児童虐待問題に社会学的アプローチを試みている広井多鶴子教授に、それぞれの見地から、「虐待」をキーワードに、日本の子育て事情を読み解いてもらいます。

 

児童虐待における数字の「ウソ」

柳原 私はこの裁判の控訴審から高裁判決まで、ほぼすべて傍聴しました。振り返りますと、この裁判は、虐待にくわしい小児科医が行った、「赤ちゃんはSBSで亡くなった」という診断が信用できるか、できないか、ということが最大のポイントだったと思います。

検察側に立って証言したこの小児科医は、厚生労働省とともに「SBS」の理論を日本に根付かせた人物の一人です。だから、簡単に自分の間違いを認めるはずがありません。それをすれば、母子手帳に記載されている「乳幼児揺さぶられ症候群」という症状そのものの信憑性が問われてしまいますからね。

高裁の裁判長が、被告人として立った祖母に、「お辛い思いをされたと思います」と声をかけたのが印象的でした。異例のことだと、司法担当の記者も驚いていました。

柳原 三佳:ノンフィクション作家。交通事故、死因究明、司法問題等をテーマに執筆。主な作品に、『家族のもとへ、あなたを帰す 東日本大震災犠牲者約1万9000名、歯科医師たちの身元究明』(WAVE出版)、また、児童向けノンフィクション作品に、『柴犬マイちゃんへの手紙』など