実録「好き」をこじらせた男の「ややこしさ」の正体

the pillows30周年ライブで思った
高木 敦史 プロフィール

しかし変化は中盤で起きます。ピロウズが演奏の出だしをちょっとミスってしまって、仕切り直しをしたときです。「やっぱ俺たち横浜アリーナでやるようなバンドじゃねえわ」などと自嘲する彼らが微笑ましくて、つい声をあげて笑ってしまいました。と、そのときふと隣の人と目が合ったのです。

たぶん私の笑い声が聞こえたのでしょう。そして、その人も同じように笑っていました。演奏はすぐに再開されて、特に会話を交わすこともなく私たちの視線は再びステージに釘付けになります。そしてかき鳴らされるギターの音に、気づけば私は無意識に右手を振り上げていました。昔からの古傷(という設定)が癒えた瞬間でした。

やがて喝采をもってライブは終わりました。ライブが終わると、それからしばらくの間はずっとぎゅうぎゅう詰めです。会場を出るのも一苦労、駅までの道も大行列、駅のホームも大混雑。でも誰も文句を言わず、みんな各々の帰路に就きます。

 

さっき一瞬笑い合った隣の人も、もうどこにいるのか分からないし、なんなら顔も性別すらも既におぼろげです。ただ、一緒にいる間はみんな一体となって、そこには祝祭的な熱狂があって、それが全て。

こうして言葉にすると、何にだって当てはまる普遍的なことですね。しかしながら、自分は人生の中でアイドルとか特定のスポーツだとかに熱中した経験が全くないので、そんな普遍的なことに気づかずに生きてきたのでした。

ともすればこの日ようやく、自分はピロウズのファンと自認するに至ったのかも知れません。そういう意味でも、自分にとって価値のあるライブでした。

という話を後日飲み屋でたまたま隣合った顔見知りの人に話したところ、返ってきた反応はなんかふーんって感じでした。普遍性とは難しいものですね。

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彼らの“いわゆる”代表曲を挙げるならば「ハイブリッドレインボウ」「ストレンジカメレオン」「Funny Bunny」あたりになるでしょうか。全部20世紀の曲ですね。でも最近もたくさんあるのでご興味あれば好きなところからぜひ。https://www.youtube.com/channel/UCJFJuYpd7mMeC9mZVdTqV1g